選べなかった命 出生前診断の誤診で生まれた子 (文春文庫)

著者 :
  • 文藝春秋 (2021年4月6日発売)
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感想 : 4
3

とにかく重い内容の本でした。
読めば読むほど、気持ちが沈んでいきそうになりました。
命の選別、という難しい問題です。
誰もが、生まれてくる赤ちゃんは、五体満足の元気な子どもであってほしいと望んでいます。
それが事前にある程度、どんな子が生まれてくるかがわかれば、選びたい気持ちもわかります。

母体保護法、出生前診断、そして過去の強制避妊手術されられたことが問題となった今は廃止となっている優生保護法。

選べるのはダウン症のみ。
出生前診断を行って、ダウン症の可能性が高いと妊娠継続しなかった親は、生まれた子が、検査では分からない他の種類の先天性の病気や、出産時のトラブルで何か重篤な症状が出たら、そして出産後に感染症や重篤な病気になったら、重い発達障害などの症状だったら、育てていけるのだろうか。
きっと大半の人が育てていくのだと思います。
ダウン症の子を育てていくことも、それと同じなのかな、という気がします。

でも事前にわかる診断があって、その結果が望んでいないものならば、排除したい気持ちもわかります。
そもそもこの検査を行う目的の『陽性が出た場合、出産前に、心の準備をしてもらう。』という意味が分かりません。
殆どの人が不安が増すのでは?
だったらこの診断の目的など、なんの意味も持たないと思います。

医療者側として、この検査によって中絶を望む人が増えたため、それを受け入れる病院のスタッフは大変辛い気持ちで働いている話もありました。
このくらいの週になると、身体も人間として出来上がってくるので、出産、という形になり、生まれてきたは保育器に入らず、膿盆にのせられ、死ぬまで放置されるというのです。
私も知人からこの話を聞いたことがあり「赤ちゃんが生まれてくる手伝いをするはずの助産師が、なぜ殺すことに加担しなくてはならないのか、本当に辛すぎる」と言っていました。

誤診を受けたために出産したが合併症により亡くしてしまった親が医師を訴えた話や、医療従事者の話、ダウン症を実際に育てている人やその本人の話、ダウン症の子は育てられない、と母親が預けた先の里親の話、そして誤診により訴えられた医師の弁護士の話、過去に強制不妊手術を受けた人の話などが載っていました。

その中で、訴えられた医師の弁護士の「生命は受精した瞬間から命である。命をどう考えるか、という問題である」、
そして日本で大学を卒業したダウン症の岩元綾さんが、誤診でダウン症の子を出産した後、合併症で亡くし裁判を起こした親について「赤ちゃんがかわいそう。そして一番かわいそなのは、赤ちゃんを亡くしたおかあさんです」という言葉が心に残りました。

出生前診断の目的は、その結果によって実際に取られている行動(中絶)を正当化するための建前なのでしょうか。
選択できる機会が与えられれば、苦労だと思っている方を選びたくないものではないでしょうか。
選別される側と、選別する側。
人間が命の選別をしていいのか。過去の優生保護法と照らし合わせてどうなのか。
こんな内容の本は初めて。
本当に読めば読むほど、きれいごとでは済まないのかな、と辛くなる内容でした。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 医療・福祉・健康
感想投稿日 : 2022年5月29日
読了日 : 2019年4月16日
本棚登録日 : 2022年5月29日

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