二つの祖国(四) (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社 (2009年9月14日発売)
4.35
  • (112)
  • (83)
  • (26)
  • (2)
  • (1)
本棚登録 : 864
感想 : 45
5

第4巻目は東京裁判の後半部分が展開される。
天羽賢治は東京裁判の言語調整官として、日々の裁判に臨んでいた。
裁判が進むにつれて、勝者が敗者を裁く様相が明確に成っていった。
最初は公正な裁判を望んで、その一助になればと思い、臨んだ賢治であったが、
裁判が進むにつれて、その実相は裁判という体裁を整えただけの、勝者が敗者を裁く不正な内容だった。
賢治は裁判が進むにつれて、煩悶する日々が続いた。
日本に来ている賢治の妻エミーとも夫婦喧嘩が絶えなかった。
かつての同僚の椰子との付き合いにだけ、心が癒される賢治だった。
椰子は広島での被ばくが元で白血病になる。
日々衰えていく椰子を、裁判が忙しく見舞いにも行けない賢治は、ますます苦悩の日々が濃くなっていく。
椰子が重体の知らせを聞いた賢治は、すぐにでも駆け付けたかったが、裁判中に、それは許されなかった。上司になんとか許しを得て、極秘に広島に向かったが、間に合わなかった。
死ぬ直前まで、「ケーン、ケーン」と言っていたと椰子の妹の広子から聞き、その遺体を見て賢治は慟哭した。
傷心の賢治は東京に戻った。
やがて、判決の時が来た。
戦争犯罪人となり、7人が絞首刑の判決を受けた。その中の一人は文官であり、どう見ても死刑の判決はおかしいと賢治は思ったが、モニターである賢治は判決に一切の口出しはできなかった。
裁判中に審議された、アメリカの原爆投下についても文書からは削除され、何も問題にされなかった。
日々疲れていく賢治は自分のしていることは何なのかと煩悶の日々は続く。
そんな中、賢治にCICからアメリカについての忠誠の嫌疑がかかり、査問される。
自分はアメリカに懸命につくしているのに、どこまで行っても人種差別され、嫌気がさして軍隊を辞めてしまった。
一方、かつて椰子の夫であった、チャーリー宮原は、軍隊を辞め、華族と結婚し、結婚式が済むとアメリカへ行ってしまった。
賢治の弟、忠は生前の椰子の言葉によって、賢治とのわだかまりが解消していった。
忠は日本に残った。
裁判が終わり、妻のエミーと二人の子供は先にアメリカへ帰した。
チャーリーの結婚式を中座した賢治は宿舎へ戻り、軍隊の制服とピストルを返却する用意をした。
弟の忠から連絡があり向かったはずが、どういう訳か、誰もいない裁判所に着いてしまった。
裁判では、「被告を絞首刑に処す」と言わされた。
賢治は虚無感に襲われ、ピストル自殺をする。
死ぬ瞬間の賢治の脳裏には、星条旗と日章旗がはためいて、砂漠の砂塵が濛々と容赦なく吹き付け、果てしなく続く鉄条網が焼き付いた。

悲しい結末で終わってしまった。
この物語はフィクションであるが、巻末にある作者が取材した協力者の氏名と膨大な参考文献から、史実を忠実に再現した物語だ。
この物語を読んで、戦中戦後の日系人の苦悩が初めて分かった。
テレビでもNHKの特集番組か、なにかで東京裁判の様子を流していたが、そんなものかと興味が無かった。
戦犯として、極悪人に仕立てあげられた東条を含む死刑囚7人は普通の良識人であったようだ。
本物語で、その様子が理解できた。
偉大な作家のご冥福をお祈りします。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 戦争
感想投稿日 : 2024年1月4日
読了日 : 2024年1月4日
本棚登録日 : 2023年3月4日

みんなの感想をみる

コメント 0件

ツイートする