ころころろ しゃばけシリーズ 8 (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社 (2011年11月28日発売)
3.85
  • (175)
  • (348)
  • (261)
  • (17)
  • (1)
本棚登録 : 3170
感想 : 227
5

畠中恵「しゃばけシリーズ」8作目(2009年7月単行本、2011年12月文庫本)。短編5作の短編集。
短編5作というより、一つの長編の起承転結が5作で構成された物語で、一太郎の目が見えなくなったことの起承転結だ。次から次へとよくこんな事思いつくなぁと思うほど奇想天外な展開で、面白い。特に⑤<物語のつづき>は神さま怒らないかなあと思うぐらいふざけた話なんだが、よく出来た展開でぐっと引き込まれてしまう。そして③<ころころろ>、④<けじあり>では仁吉、佐助の意外な優しい面が見られてほっこりする。
でも目が見えなくなった一太郎の怯えもせず、冷静で、物怖じせず、淡々とした鋭い分析力がやっぱり凄いのだ。高僧や神をも凌ぐ柔軟な思考能力で自らの目の光を取り戻すのだが、大勢の妖達や高僧や家族、友人に愛され、支えられているからこその一太郎なんだと思わせられる作品だ。

①<はじめての>
一太郎の目が見えなくなることのきっかけとなる6年前の一太郎12歳の出来事
②<ほねぬすびと>
目が見えなくなった事件
③<ころころろ>
仁吉が一太郎の目の光を取り戻すために生目神の玉を持っていった河童を探しにいき、同時に関わる者達も助ける話
④<けじあり>
佐助が一太郎の目の光を取り戻すために生目神の頼みで危険な夢の中に入る話
⑤<物語のつづき>
一太郎が生目神の思いを突き止め、思いの謎を解き、生目神から目の光を返して貰う話

①<はじめての>
一太郎12歳、仁吉17歳の頃の一太郎淡い初恋の物語。
日限の親分が長崎屋にお沙衣という15歳の女の子を連れて来た。おたえに似た綺麗な子だった。お沙衣の母親のおたつが目の病にかかっているらしく、薬種問屋でもある長崎屋に相談に来たのだ。ただ用件は薬の所望ではなかった。
かかっている目医者の古田昌玄から「目の病に霊験あらたかな神社の『生目社』が火事で焼け、再建しなければ目の病は良くならない」と言われていた。その地鎮祭に鎮壇具として七宝を埋めなくてはならないという。日限の親分は、その七宝を集めようとするお沙衣を諦めさせようと長崎屋に連れて来たようだ。
詐欺臭プンプンの話にどういうわけか一太郎はお沙衣に協力しようとしていた。
結果的には一太郎がおたつの目の病の嘘も古田昌玄の詐欺も見破るのだが、お沙衣は母親から独り立ちして、好いているかんざし職人の男の熊吉と二人で上方へ旅立ってしまう。
一太郎は自分でもわからず、胸苦しく涙ぐみ、仁吉と佐助は優しく笑っていた。12歳で初恋失恋の一太郎だった。
一太郎がマザコンであったとは…まあ12歳なら仕方ないか〜

②<ほねぬすびと>
朝起きると一太郎の目が見えなくなっていた。長崎屋は大騒ぎになるが全く良くはならず、病ではなく妖か生目神が絡んでいるのではないかというところまでの話。そして長崎屋に降りかかった商売の危機を一太郎が救う話。
伊勢の久居藩の江戸上屋敷から岩崎という武士が長崎屋に干物の運搬の依頼にやって来た。国元の名物を大層気に入った幕閣の一人に贈る為のものだが、久居藩は何度も国元から江戸への運搬に失敗していた。時間がかかり過ぎて腐ってしまうのだ。それを長崎屋の船なら何とかなるのではないかと藁をも掴むつもりで頼ってきたものだ。藤兵衛は断るが、積荷の籠には封印の紙を貼ってその封印が解かれていなければそのまま受取り、中の状態は問わないという条件を出して来た。土下座までする武士の前で藤兵衛は仕方なく受諾する。
そして積荷が長崎屋に着いて蔵に入れると封印が破られ干物は全て無くなっていた。盗人は不明だが藤兵衛は岩崎に大枚の補償の話をしていた。その場に目の見えない一太郎が入ってきて、異論を唱え、岩崎を問いただす。積荷の籠には国元を出る時から何も入ってなく、長崎屋に着いてから誰かが封印の紙だけを破ったのではないかと。その理由を久居藩の台所状況や過去の運搬の失敗の状況を踏まえて順序立てて推論を話すと岩崎は返答が出来なくなっていた。
一太郎は武家の顔も立てて代替案まで提案し、長崎屋の危機を救うと同時に久居藩の窮地をも救うのだ。
しかし一太郎の目はまだ見えないままだった。一太郎は見えなくなった状況を考えながら、12歳の頃に関わった生目神社の神が関わっているかもしれないと思った。そして奉納するはずだった七宝に河童が関係しているかもしれないとも考えていた。

③<ころころろ>
一太郎の目を治すために仁吉と佐助は長崎屋を出て奔走する。仁吉は七宝の石を持っている河童を探しに奔走し、佐助は生目神社の神を探していた。
仁吉が河童を探していると次から次へと見世物小屋から逃げ出して来た妖達が仁吉に助けを求めて来た。母親と離ればなれになって死んだ女の子が人形に取り憑いた小ざさ、ろくろっ首に骨傘、そして人でありながら妖が見える故に親から見せ物小屋に売られて、見世物にする妖を見つけることに協力させられていた6歳の万太。小ざさや万太は河童のいる見世物小屋に仁吉を案内する。
そして仁吉は小ざさに想いを寄せる河童も救い出し、3人?を寛朝のいる光徳寺へ連れて行く。 万太を寛朝に秋英の弟分として預かって貰い、小ざさは母親のいる黄泉の国へ導き、残った人形は河童に渡す代わりに持っていた生目神の七宝の一つの玉を貰い受ける。
仁吉はこれでやっと一太郎の元へ帰れると安堵するのであった。

④<けじあり>
佐助が記憶喪失になったのか、別の佐助の話なのか、いきなり佐助が小間物屋「多喜屋」の主人でおたきという女房までいた。どうも佐助の夢の中の話のようだ。店はどんどん大きくなっていくし、奉公人もどんどん増えてあっという間に大店になっていく。ところがおたきが鬼を見たといい、毒で退治するという。どういう訳か佐助の袖の中には2匹の鳴家が入っていた。鳴家が殺されると思ったところで佐助が、悪鬼となったおたきを鎮めて成仏させ、夢から戻るという話だ。
何があったのか、夢が覚めてからそれがわかる展開になっている。
光徳寺の寛朝が生目神から鬼に取り憑かれた女を救うよう頼まれた
のだが、憑依している枕で寝て夢の中で救うというものだった。その危険な役目を買って出たのが佐助だ。一太郎の目の光を取り戻したい一存で夢の中に入っていったのだが、戻れる保証はなかった。夢の中では佐助はおたきの旦那で佐助の記憶は消されている。その夢の中の佐助に一太郎は寛朝に頼んでメッセージを送る。それが「けじあり」即ち「怪事有り」というメッセージだ。
佐助は悪鬼となって佐助を襲うおたきをかわし鎮めて成仏させると 、探していた生目神の七宝の一つの玉を得るのだった。

⑤<物語のつづき>
何とか生目神に会って話をしなければ、一太郎の目の光は戻らないと確信した仁吉は、何処にいるのか判らない生目神に会う為に生目神を誘い出し捕らえる仕掛けを考えた。前作『いっちばん』の『い
っぷく』の中での鳴家が捕らえられた方法を真似たものだ。まさに
[神さまホイホイ]だ。こんなふざけた方法で神さまが捕まるはずがない、と思っていたら捕まった。光徳寺と長崎屋の庭に仕掛けた内、光徳寺の方で捕まった。
仁吉は生目神に脅しをかけながら、一太郎の目の光を返すように迫る。すると生目神は問答を仕掛け、正解を言えれば返すと言ってくる。怯んだ仁吉に変わって一太郎はこれを受けた。問答は[桃太郎伝説のその後]だったが鳴家や妖達が一致して桃太郎の強盗説を唱えた為、一太郎が生目神に納得いく説明を求めた。怯んだ生目神は回答を保留し、問答を変える。[浦島太郎伝説のその後]だがこれも一太郎が貧乏神の金次から実際のことを聞いていて知っていたので、生目神はまたもや問答を変える。名前を伏せて[ある娘のその後]だが、明らかに生目神が好いた女の行方の話だ。
生目神が神無月に数日出雲へ行っている間に行方不明になった人間の女を探しているようだった。生目神は娘に出雲へ行く前にいくつかの玉を渡していたが、出雲から戻ると娘も娘の親も居なくなっていた。亡くなったのかと旦那寺に行ったが葬儀が行われたこともなく、僧侶に聞いてもその娘のことを知っている者は居なかったと言う。
ここで一太郎はその謎を解いて、生目神から目の光を取り戻すのだが、妖と人間以上に神と人間の時間の流れは違うことの哀れで悲しい話である。と言っても神がそれに気付かないとはあまりにも間抜けな話ではあるが…
一太郎12歳の時の生目神との関わりが6年も経って今、昨日のことのように降りかかってくる。
浦島太郎が龍宮城から戻ると知っている者は誰も居なかった。
旦那寺へ飛んで行った生目神は過去帳に書かれた100年前の名前にもし娘の名前を見つけたら、どう思うのだろう?
一太郎の優しさが際立つ物語だった。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2021年12月22日
読了日 : 2021年12月22日
本棚登録日 : 2021年12月9日

みんなの感想をみる

コメント 0件

ツイートする