寛容論 (古典新訳文庫)

  • 光文社 (2016年5月12日発売)
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感想 : 10
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「考えの違う人に対して、怒ることなく、寛容でいる」。当たり前といえば当たり前だけども、私にとっても、この本が書かれた当時のフランスの人たちにとっても、実践は難しかったらしい。

まず、本を読んで驚いたのはキリスト教の教派間で殺人や迫害が公然と行われてきた歴史があったこと。そして、その理由がまさに教派が違うからというものであったこと。本書の書かれた時代のフランスでは、カトリックがプロテスタントやユグノーといった少数派の教派を迫害していたらしい。そうした歴史を述べながら、「それに対して、筆者がそれを戒め、寛容という人徳を持つことを勧めるという流れで構成されていました。

雑にまとめると、最初の言葉のような要約になりそうですが、今までの人生を振り返ると、当たり前のように思える正しさ(言われなくとも意識できそうな)しかないのに、どこまで実践できてきたか非常に怪しい。私自身、「自分が信じるものを、相手に強要する」という態度(カトリックが少数派教派に接したように)を取った場面がいくつもある。常識とか、当たり前とか、そういった教派に属して人を非難した覚えがある。相手と自分が同質であることを期待して、それが裏切られると強要するーそんなことが自身の内や周囲や、それを包括する集団の中でも繰り返されてきたと感じる。

それが拡大すると、考えの違う集団に対して「考えが違うという」理由だけで攻撃できてしまうことが、本書の『カラス事件』や争いにつながることを追体験しました。

「われわれ人間はほんのわずかな文章のために、互いに相手を抹殺してきたのである(p63)」という言葉にあった通り、互いに考えが違ってもそのこと自体を騒ぎたてるのではなく、「人間たちは、みんな、たがいに兄弟であることを忘れないようにしよう(p197)」という態度で相手を尊重できる人になりたい。

「考えの違う人を受け入れられない。では、どうするか?」という葛藤は、当時のフランスの社会に限らない、どの時代の人生の中でも現れると思います。その時、時代を超えて対立を戒めてくれる、一つの答えを先々の人へ提示してくれる素晴らしい本だと感じました。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 政治・経済・言論
感想投稿日 : 2020年11月15日
読了日 : 2020年11月15日
本棚登録日 : 2020年11月15日

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