ときには星の下で眠る (角川文庫 緑 371-15)

著者 :
  • KADOKAWA
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感想 : 6
4

 我々の世代のライダーにとってはバイブル的存在。 片岡義男。
 彼の小説の世界に憧れて、オートバイの世界に踏み込んだライダーは多いはず。


 読み返すと、最初のページから、懐かしい硬い調子の文体。
 シャープな映像が伴ってくるような。


 バブル。ハードボイルド。映画。角川文庫。赤い背表紙。
 あの頃のあれこれが蘇る。




 ストーリーが気取りすぎのような気がして、それほどはまり込んで読むことはなかったが、読み返してみると、そこにはライダーだけが楽しめるような世界が確実に、存在する。
 
 泡でも、気取りでもない。


 バイクとともに時を過ごした者でなければ、描けもしない、理解もできない世界がそこにある。




 黄ばんでしまった文庫本の巻末に書かれたメモによると、
 初めて読んだのは18の頃。
 原付バイクを手に入れたばかりの頃。
 大学受験に失敗し、受験勉強の日々の自分には憧れでしかなかった世界だったか。
 次に読んだのは、26の頃。
 今も乗り続ける大型バイクを手に入れて、登場人物たちの世界に入り込めたと思った頃か。
 そして今。50歳も近づいてきた今。
 青臭い憧れを抱いて手に入れたバイクとのつきあいも26年となった。
 描かれた青春群像に対しては、同感も反発も強くは感じず、
 ただただ細密画のように書き起こされているバイクとの対話の描写を味わう。


 膝の間に抱えていた車体を、サイドスタンドを出して傾ける時。
 地面にそっとその重さを、大事なものを預けるような感覚が伝わってくる文。


 真っ暗な山中のワインディングを、ヘッドライトが照らし出す空間から、
 左に右にコーナーを曲がるたびに、繰り返しはみ出しながら走る感覚。


 ライダーでなければわからない、興味すらない描写を散りばめる。
 さて、現代の若いライダーたちにはどう映るのか。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2013年6月6日
読了日 : 2013年6月6日
本棚登録日 : 2013年6月6日

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