象は忘れない (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)

  • 早川書房 (2003年12月1日発売)
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本棚登録 : 692
感想 : 59
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とある婦人の奇妙な質問から幕を開く本作、作中で描かれる殺人はその質問対象となる1件だけというのに退屈させないのは著者の卓越した構成能力故だろうね


昔に仲睦まじい夫婦が自殺した。果たして先に銃の引き金を引いたのは父か母かどちらだったのか
そんな取り留めのない疑問が多くの興味を掻き立て、過去への探求を始めさせるのだから面白い

十年以上前に終わってしまった事件。センセーショナルであっても迷宮入りではないから現代でもその事件を探り続ける者は居ない
ならヒントを探る聞き込みは出来ないかと思いきや、意外や意外に覚えている者が居る。勿論、断片的だったり間違っていたり思い込みが多分を締めていたりと事実全てを覚えている者は居ないのだけど、それぞれがそれぞれの尺度で何かしらを覚えている
そういった好奇心が凝り固まった噂を集める事で過去へ迫っていくわけだ

思えば探偵役となるオリヴァやポアロだって捜査を始めた理由は好奇心に似た感情
でも、事件の影を引きずる若いカップルが前面に出てくるに従って、二人の行動理由も変わってくる
だからこそ、次第に見えてくる事件の光明はその新しい行動理由にリンクしているし、最終的に到達する事件の真相もその類である事に納得できる

そうして積み上げられた諸々が美しく描かれるクライマックスで真相が明かされた際には思わずうるっと来てしまったよ……

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: ミステリ
感想投稿日 : 2023年7月19日
読了日 : 2023年7月19日
本棚登録日 : 2014年10月25日

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