3月のライオン 8 (ヤングアニマルコミックス)

著者 :
  • 白泉社 (2012年12月14日発売)
4.45
  • (825)
  • (499)
  • (146)
  • (5)
  • (2)
本棚登録 : 5976
感想 : 379
5

零と宗谷の対局、二人には大きな実力差が有る。だから結果そのものはほぼ決まっている
ここで求められているのはどれだけの将棋が指せるか。

明確に悪手を指してしまった零はその時点で敗着と悟りつつもそこから全てを最善手のみで指してやろうと意気込む
島田との対局の際には自分の足りなさを恥じて途中で対局を辞めたいと思ってしまった零だけど、ここでは全く逆の考えを見せている。
この対局を思う存分「味わってやろう」との気持ちだったのかもしれない

そうして対局が終わった零は帰るのだけど……
ここで思わぬ展開になったね。迷子をお家に送り届けるような展開には見ているこちらまで何とも言えない気持ちに…
それでも見えてくるのは宗谷の人間性。将棋に関わる部分では彼は鬼か神かといった所だったけど、迷う零に精算窓口やホテルを示すなど年長者としての振る舞いを見せる
また、明かされた宗谷の事情からも判るように宗谷って将棋のために人間を辞めたわけではなくて、耳が聞こえなくなったことで将棋の世界にのめり込めるようになってしまった人間だったというわけか
そうなった宗谷の振る舞いを見て周囲は勝手に天才だ、鬼才だと持て囃すけど、その実情はとても孤独で儚い人なのかもしれないと、零が朝起きたら消えていた描写含めてそんな風に思ってしまった


79話から始まるのは島田と柳原による将匠戦なんだけど……
いやはや、これがどうして予想外に深みのある重い対局を見せてくれたね
最初は完全にギャグ調で二人のポスターも投げやりだし期待されてないのかな、なんて思ってしまったが実際は二人は周囲からの想いをこれでもかと身に纏った人間だったわけだ

こうしてみると柳原って島田の上位存在なのかなと思えてしまう
島田は故郷に錦を飾る為に胃の痛みと共に何十年も戦い続けた。故郷の期待は島田の重圧となりつつも一方で諦めさせない強さとなった
対して柳原も長い棋士人生の中で諦めざるを得なかった人々の想いを雁字搦めになるまで身に纏っている。それが柳原の重厚な力の源泉となっている
二人は似ているようで少し違う。島田は棋士になれなくて故郷に帰った自分を夢に見ていたけど、柳原には棋士を辞めて残るものなんて想像できない。また幾重にも絡まった想いの襷は柳原に棋士を辞めることを許さない
けれど、棋士を辞められないとの想いがまるで将棋盤にしがみつかせるような、それでいて誰にも退かせられないような将棋を指させる

全てを拾い、全てを捨てないまま永世称号を獲得した柳原
それだけでなく、焼け野っ原にいるようだと漏らしていたがんちゃんに頼み集合写真を撮るシーンは感動モノ
柳原が火だるまになっても離さなかったものの価値が集約されているような気がした

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: マンガ
感想投稿日 : 2020年1月25日
読了日 : 2020年1月23日
本棚登録日 : 2020年1月1日

みんなの感想をみる

コメント 0件

ツイートする