名画小説

著者 :
  • 河出書房新社 (2021年8月21日発売)
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感想 : 17
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 芸術ミステリを得意とする深水黎一郎さんの新刊は、実在の名画13点をモチーフにした短編集である。1編辺りの長さは抑えられ、掌編集と呼ぶべきか。ご本人曰く、切れ味で勝負したという。

 13点の名画は、中世ヨーロッパの作品からわずか数年前という近代の作品まで、バリエーションに富んでいる。当然、これらから生み出された各編の作風も、バリエーションに富んでいる。正統的芸術ミステリは、むしろ少数派なのだった。

 「後宮寵姫」。この絵は当時叩かれたというが、叩かれた理由をこのようにアレンジするとは。ルーブル美術館を舞台とした最初の1編が正統的芸術ミステリだったので、てっきりこういう作風で統一していると思ったんだよねえ。

 2編目「旧校舎の踊り場」。なるほど、この怖い絵は、怪談に打ってつけ。そして3編目ではっちゃける「美姫と野獣」。ディズニーに喧嘩を売っているのか? 「東洋一の防疫官」。あまりにも有名なこの絵から、なぜこんな話が生まれた?

 タイトルがそのまんまな「女殺し屋と秘密諜報員」。男女の夜は更けていく。本作の一押しは「孤高の文士」。読み終えてググりました。続いて「孤高の文士2」。身に覚えがある作家はいるのでは? これもそのまんまな「六人姉妹」。そのまんまだってば。

 「父の再婚」。唯一、温かい気分になる作品か。「ぼくのおじいさん」。たまたまその画家と絵は知っていた。知らなければ、受け止め方が違ったかもしれない。「祖母綠(エメラルド)」の少女 I」「祖母綠の少女 II」は、宗教画への突っ込みの嵐の後、予想外の結末が…。

 最後に、本作中ではやや長い「葡流后の塔の上で」。ようやくと言うべきか、あの男が登場し、正統的芸術ミステリで幕となる。それにしても、最初と最後だけが正統的芸術ミステリとは。改めて、一筋縄ではいかない作家であることを実感した。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 深水黎一郎
感想投稿日 : 2021年8月31日
読了日 : 2021年8月31日
本棚登録日 : 2021年8月31日

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