日経新聞の書評で取り上げられたいた「進化する企業のしくみ」PHPビジネス新書(鈴木貴博+宇治則孝)を読みました。あとがきによると、本書はNTT副社長の宇治さんがWeb2.0時代のITが企業にもたらす影響について講演した内容をベースに、ボストンコンサルティング出身の経営コンサルタントである鈴木さんと宇治さんとでコラボすることで完成した本とのこと。宇治さんは現職の前は僕が勤務する会社の代表取締役常務だったことから面識がある分、単なるIT本とは違う視点でうなづきながら読むことができました。
アップルのiPODに始まり、本ブログでも取り上げたグーグルゾン(アマゾン+グーグルの仮想企業)、マッシュアップ、そして企業内SNS等のキーワードを織り交ぜながら、今後の企業経営におけるITの役割、特にマクロ的な視点ではマッシュアップに象徴されるような業種を超えた企業間の協業を促すしくみと、ミクロ的には社内SNSが企業内の社員一人ひとりを繋ぐことで生み出しつつある新たな集合知の可能性について身近な事例を挙げて論じています。
印象的だったのは次の箇所。
企業の情報防衛と、社内外の人々がネットワークを通じてコラボするという理想が両立する世界が近い将来、実現するのである。その結果おきることは、人間主導型の新しいIT活用の進展である。
過去5年を、ITを通じた新しい人とのつながりを企業が制限する時代だったとすれば、これからはITを通じてより自然に、よりノンストレスに社員と取引先、会社での先輩と後輩、異なる部署の社員同士がつながりコラボする時代が到来する。
この流れを機会として捉えるために、企業経営者が行うべき重要なことが一つある。技術の潮目をきちんと理解することである。つまり、原則禁止から原則OKへと方針を切り替えるタイミングをきちんと見極めなければならないのだ。
本書では、人間主導系の新しいITのしくみが生み出す潜在価値について正しく理解することで、単に情報漏えい事故等に代表されるような消極的なITの使い方を超えて、企業の経営に付加価値を与えうる形でのITの活用を促すことが企業経営者にとって大事な役割と主張しています。
今から2年ほど前に社内SNS(Nexti)を構想し、執行会議に付議したとき、真っ先に賛同の意を評してくれたのが宇治さんでした。一方で、数多くの法人分野のお客様に情報システムを提供する責任者として、また当社のCIOとして、ITが持つ怖さを誰よりも痛感していたのも彼だったと思います。Nextiがオープンした時に宇治さんの部屋を訪ねて、その場でNextiに招待して主な機能を説明したのですが、「なるほど、百聞は一見に如かずとはこのことだな」と言われた言葉が印象的でした。その後も折に触れてNextiがどんな形で社員に使われているかについて高い関心を持ってウォッチされていましたが、お会いするたびに社内SNSに対してより肯定的なスタンスにシフトしていったように感じていました。
そんな経緯もあり、本書で9ページに亘ってNextiについて取り上げられているのを読んだ際は感慨深かったです。この「社内SNSが企業内の集合知をどう変えるか」の章は次のように締めくくられています。
驚くべきなのは、これらの事例を生み出している社内SNS『Nexti』は、いまでも有志社員がボランティアで管理、運営しているということである。本業を抱えているにも関わらず、彼らボランティアメンバーは、「楽しいからやっている、この活動自体が自分たちの糧になっている」といっている。彼らが経験し、得たものと、そしてそこから生まれたものはNTTデータが投資した金額の数倍、数十倍の価値があるだろう。なにしろ売上1兆円企業の中で生まれたWeb2.0的な相互貢献のしくみなのだから。
豊富な事例を用いた分かりやすい説明で、最近のITトレンドと今後の企業経営に与えるインパクトについて書かれていますので、IT業界に馴染みのない方にもお勧めの一冊です。
- 感想投稿日 : 2011年1月15日
- 読了日 : 2011年1月15日
- 本棚登録日 : 2011年1月15日
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