思いがけず利他

著者 :
  • ミシマ社 (2021年10月25日発売)
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「『合理的利他主義』は利他ではありません。むしろ利他の本質を崩壊に導くイデオロギーです。」ふだんやわらかな語り口調の著者からすると、これはかなり激しい意見表明に聞こえる。合理的利他主義とは、利他的であるのは、まわりまわって自分に利益がもどってくるからであるという、結局利己的な考え方のことである。その利己的な部分が入ってくると、もはやそれは利他ではありえない。だから、利他とは、偶然に、思いがけずやってしまうものであって、意図的なものではない。自分はなんとも思っていなかったのに、ずいぶん経ってから感謝されたりする。そんなふうに未来からやって来るものなのである。本書の後半を読みながら、ずっと「恩送り」ということばについて考えていた。自分がもらったプレゼントに対してお返しをする。気持ちの問題だし、そうやって経済はまわっていると考えれば悪い習慣ではないのかもしれない。しかし、自分がプレゼントをして、そのお返しを期待するというのはちょっと違うような気がする。自分が受けた恩を、与えてくれた相手にではなく、また別人に与えていく。それはおそらく、同じ時間の中に限らず、過去から現在へ、そして未来へとつながっていくものだと思う。親から受けた恩は、子へ与えればよい。先生や先輩からいただいたものを、生徒や後輩へ受け継いでいけばよい。だれも皆自分一人で生きてきたわけではないのだから、他から何らかの利益を得てきているはずである。そうして生かされてきたことに感謝し、無意識であったとしても何かを他者に渡していくことができれば良いのではないか。皆がそんな思いで暮らしていれば、住みやすい世の中になるような気がする。これは利他ではないでしょうか。たまたま、2日休みが続いたので一気に読み通した。若松さんとの出会いの場面に最も感動した。偶然が一気に必然になる瞬間。そういうことってあるのですね。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 中島岳志
感想投稿日 : 2021年10月22日
読了日 : 2021年10月22日
本棚登録日 : 2021年10月22日

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