日本人の学力低下が叫ばれて久しい。その理由としてはいくつか指摘されていますが、いわゆる「ゆとり教育」が本来の目的とは違う方向に陥り、つまり生徒が自分で考える力を伸ばすことができず、単に教える内容が減ってしまったため、絶対的な知識量の減少が生じてしまったこと。それからインターネットの広範な普及で、居ながらにして大量の情報が入手できるようになったため、情報の価値が相対的に低下したことがあげられるかと思います。
マスメディア、とくにテレビ番組の力も大きいでしょう。バラエティ番組に見る価値のあるものはないと思っていますが、とくに昨今の「おバカタレント」の知識のなさを笑いものにする番組が酷い。視聴者にとって、自分よりも知識のないものがテレビカメラの向こうにいることで、これ以上学ばなくても安心だという気分が生まれるのでしょう。
この本もそういった話をベースに書かれていますが、懐古趣味が強すぎて、納得のいく部分はほとんどありませんでした。人間が易きに流れるのも、日本社会が米国化したのも、インターネットで情報の洪水が起こるのも、時代の要請であり必然です。それに抗おうとして、何になるのか。
このような時代のもとで、どのようにして学びを得るのか模索するべきところが、昔はよかったで終わってしまっています。
また、昔の教育が必ずしもよかったわけでもありません。画一化した人材しか供給できず、過去の成功体験にとらわれて進歩できない教育でしたから、状況の変化に対応できないわけです。太平洋戦争の4年の間に敵国の戦力が増大したのに、手をこまねいていて敗戦したし、戦後の高度経済成長の結果日本が米国を追い抜いた瞬間、目標を見失って迷走しました。
新しい時代の、新しい学びが必要なのに、そのことについて何も書いてくれていないのが、大きく不満でした。
とは言っても、新しい試みについて実際に何も書かれていないわけではないのです。作者自身、新しい時代にあった試みを行っているし、その内容は「あとがき」の10ページ余りに凝縮されています。この試みについて別の本に書かれているのかもしれませんが、この本でも1章を割くくらいのバランスで、ちょうどよかったのではないでしょうか。
- 感想投稿日 : 2011年8月19日
- 読了日 : 2011年1月24日
- 本棚登録日 : 2011年8月19日
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