下北沢駅南口、小劇場があつまり、雑貨屋や古着屋、若者でにぎわう界隈を抜けると、閑静な住宅街になる。
季節ごとの花が咲き乱れる庭と、赤い屋根の、屋根裏部屋がある中山家は、土地持ちの資産家で、アパートもいくつか持っている。
中山望(なかやま のぞむ)24歳。
大学時代から、マンガ喫茶のバイトを7年続けている。
家も土地もいずれ自分のものになると思うと、真剣に就職活動する気になれないし、やりたいこともわからない。
…という、いけ好かないヤツ(笑)である。
上の姉・葉子(ようこ)29歳は、娘を連れて出戻ってきた。
下の姉・文乃(ふみの)25歳、わけあって一人で電車やバスに乗れない。
妹・弥生(やよい)もうすぐ受験。
父、インドネシアに単身赴任、母は宝塚好き、祖母は入院中。
他にも登場人物多く、なかなか覚えきれない。
中山家の姉妹たちをはじめ、人との距離の取り方が、絶妙で微妙。
それでうまく行っているのかもしれないが、心のうちはわからない。
章ごとに入る、かわいいハリネズミのアイコンは、葉子の娘のメイが飼っている“ハリー”と思われるが、登場人物たちの抱える「ハリネズミのジレンマ」の象徴かもしれない。
中山家の持つアパートの住人、林太郎は、望のバイトの同僚で、役者志望というのが下北沢らしい。
この子が一番健全な精神の持ち主な気がするなあ~
下北沢は、若者にとって居心地のいい場所、いつまでも夢を見ていられる場所、ダメな人間に優しい場所。
それゆえに抜け出せない焦燥が募る。
同じく、不自由のない家の中も、ゆるい檻である。
登場人物がやたら多いのも、ああ、そうなるのね、という納得。
結局、望は、大黒柱というある意味人柱の道を選ぶ。
いろいろなことが“ナレ死”的な感じで知らないうちに進行しているのは、登場人物が多いせいなのか、主人公の望が、女たちの蚊帳の外に置かれているせいなのか。
身勝手と思える行動をとる人物が多いのは、これが現実なのかもしれないが、姉・葉子の別居の動機が、個人的に納得できない。
子供がいなければ、そういうお花畑な発想も構わないが、幼稚園児の娘を振り回すに足る理由なのだろうか?
烏天狗は独りの子供を見かねた商店街のおっちゃんか何かじゃないの?
- 感想投稿日 : 2017年11月29日
- 読了日 : 2017年11月29日
- 本棚登録日 : 2017年11月29日
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