墜落遺体 御巣鷹山の日航機123便 (講談社+α文庫)

著者 :
  • 講談社 (2001年4月19日発売)
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この本を手にしたきっかけは二つある。
ひとつめは「夏になろうとしている」から。
ふたつめは、映画『クライマーズ ハイ』を観たから。

 映画を観たから、というのは一般的かもしれない。この映画で、主人公と思われる男性記者を演じているのは堤真一だ。この映画を見ると、この地方の新聞社の面々が「日航機の墜落事故」の「事故調(事故調査委員会)」を取材しようとして、その取材合戦の渦中に身を投じた記者たちが悪戦苦闘したことを、語り手(一男性記者)の目線に寄り添う形で、体感することができる。

 「夏になると思い出す」私にとってはこの事故はまさに、これなのだ。あの、1985年8月12日の昼すぎ、私は母と弟がいた長野県のある避暑地から、部活のために一足早く帰京することになった。そのとき藤岡から東京まで、関越自動車道を高速バスで帰ってきた。当時は藤岡までしか高速道路がなくて、そのあとは碓氷のバイパスを通り、国道を行く、それが東京から長野方面に向かうルートだった。12日はお盆ということもあり、道は猛烈な渋滞で、10時間以上バスに乗っていた。つまり、東京に着いたのは山手線が終電になるころだった。生まれて初めて山手線の終電に乗ったのはこの時。帰宅したら、まだテレビががんがんついていて、ひっきりなしに「日航機墜落事故」のニュースをやっていた。私が深夜にテレビを見たのも初めてだった。事故が起きた当日だったので、「藤岡郊外」に「墜ちた」ということばかり言っていたように思う。「え、私がバスで通ってきたところじゃん」と思って、言葉にならないほど、衝撃だった。
 もう40年近く前なのに、あの日、母がお弁当代わりにホットケーキをたくさん焼いてくれて、あと、果物を持たせてくれたのを今でも忘れられない。自分が母に見送られて、一人で東京に無事に戻ってきた日に、たくさんの家族連れ、一人旅行の小学生、たくさんの乗客が恐怖の時間を過ごした末、死んでしまったのだ…。
 とにかく楽しい夏休みの最中に起こった大事故だった。

 筆者は、警察の「遺体確認捜査」の陣頭指揮をとる立場にあった。この本では、筆者の目に映った「阿鼻叫喚のさま」が警察官らしい、ある意味、冷静沈着な目線(視線)で、事実として、述べられている。
 
さまざまなことが書かれているが、今回、私が目を瞠ったのは、医療従事者の方々のことについて書かれているところだ。特に、日赤の看護婦さん(現在なら看護師さん)の動きを書いたところを読んだときにはなんとも言えない気持ちになった。例えば、「部分遺体」を遺族に逢わせるのに、「ひとがた」を作って(腐食の進む)指の部分だけをそのご遺体となった方の婚約者に見せる話。一塊になっていた皮膚を伸ばしていったらわかったこと。ご遺体を包帯でぐるぐる巻く前にマネキンのようなものを急ごしらえでつくる話。三角巾でご遺体を整える話。
 私が言うのもどうかと思うけれども、若い、医療を志す人たちにもぜひ読んでほしい、こんなことがあったんだ、と知ってほしいと思った。

 これからはこんな悲惨なことはあってはならない。
 と書いたものの、この事故のあとも、阪神淡路大震災や東日本大震災をはじめ、自然災害による大量の死者に直接、接して、検案する仕事は医療従事者はもとより、警察の、自衛隊の大事な仕事の一つなのだ。組織として意識を集中し、ひとりひとり、使命感がなければ決してできない仕事だ。
 
 そんなわけで、このような本を読み、一読者として感じることしかできないけれど、こういう感慨をできるだけ言葉にすることを、これからも大事にしたいと強く思う。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
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感想投稿日 : 2023年7月27日
読了日 : 2023年7月22日
本棚登録日 : 2023年7月22日

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