地元の書店(小規模チェーン店)の店長が、日々の仕事の悩みや苦しみ、怒り、無力感、大型店との競争に敗れた挫折感までを赤裸々につづった本。出版業界紙「新文化」の連載の単行本化で、「最後まで抗い続けた書店店長のどうしようもなくリアルなメッセージ」が帯のコピーである。
「本」に携わる人間のひとりとして、ときに怒り、ときに涙し、ときに微妙な距離感を覚えながらも、一気に読み終えてしまった。ぐいぐいと引きこまれる力のある文章で、知っているようで意外と知らない書店の現実に目が見開かされる思いがした。
出版不況に先行する形で、書店はずっと数を減らし続け、完全に斜陽産業となっている。雑誌はとうの昔にコンビニに奪われ、コミックの売上も落ち、活字離れで本も売れない。大型チェーンが増床・新規出店をくり返す一方で、地元の書店は淘汰され、ネット書店がその間隙を縫って台頭する。
さらに、電子書籍の大波が近い将来、出版流通を大きく変えるといわれている。物流・小売部門の取次・書店だけでなく、製造部門の印刷・製本、さらには出版社さえ「中抜き」される危険があるという。中間利益を搾取する古くさい産業は去れ、という声は根強い。
そうした抽象化された議論の背後には、しかし、圧倒的な現実がある。そこからあぶれた人たちの苦労があり、生活があり、職業人の誇りがあり、挫折もある。そのことの重みに胸が苦しくなる。
でも、とつぶやく私もいる。これって「本屋」が舞台だから「本」になっただけで、小売店はどこでも経験してきたことじゃないだろうか、と。
近郊に大型のショッピングセンターが進出したために、地方の駅前に生まれたシャッター商店街。コンビニやマクドナルド、牛丼、スタバなどの全国チェーンに蹴散らかされて消えていった地元の商店。ブームに乗って一旗揚げようと無数に乱立したあげくに淘汰の波にさらわれたラーメン屋、カフェ、居酒屋などの飲食店。
そこにはそれぞれ泣きたくなるようなストーリーがあったはずだけど、そうした顛末に、本にするほどの価値はほとんどない。残念ながら、読者はつかない。
もうひとつ。ここには電子書籍はおろか、アマゾンもブックオフも登場しない。ナショナルチェーンの大型店が近所にできただけである。それでも、この店は潰れるしかなかった。どれだけ思い入れがあっても、どれだけ嘆こうとも、逆にどれだけ力を入れても変えられない運命だった。そういう突き放した見方もできる。
閉店間際。スカスカになった棚を見て、「クソだな」「本屋の体をなしていない。こんなの俺の店じゃない」と毒づく主人公。しかし、どういうわけか売上は、丹誠込めて棚を作り込み、ぎっしりと本が詰まっていた時期とそれほど変わらなかったという。
「結局、俺の自己満足だった、ということなのだろうか?」とは、そのときの主人公の述懐である。
- 感想投稿日 : 2010年12月1日
- 読了日 : 2010年12月1日
- 本棚登録日 : 2010年12月1日
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