神曲 下 (岩波文庫 赤 701-3)

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感想 : 10
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山川丙三郎訳『神曲』は、他の訳者(平川祐弘訳、等)の作品を読んで、内容がある程度分かっている読者向けだと思います。
初めて『神曲』に触れる読者には、文語体の山川訳は完全に不向きです。

訳者・山川氏亡き後、出版の為の交渉を引き継いだ林竹二氏の記述によると、
「先生[山川丙三郎氏]の翻訳自身がすでに一つの古典と見倣すべきで、その全体の調子の統一を少しでも傷けたくないと強く希望した結果」
(『神曲 (下)』天堂・あとがきP.406~P.407 [ ]は評者。)
今日普及する旧版のまま、出版に至ったとの事です。

このように「すでに一つの古典」として読むのであれば、山川訳は現代においても失われない価値を有していると思われます。
読むのは物凄く大変ですが、山川訳『神曲』の持つ雅言の美しさは味わい深いです。
その点で『神曲』の幻想的な世界が、魅力的に綴られているのではないでしょうか。
特に本書、下巻「天堂」の神々しい描写に、その傾向がよく表れていると思います。

一例として本文冒頭から抜粋。(ルビは[ ]に記入。)

「萬物を動かす者の榮光遍[あまね]く宇宙を貫くといへどもその輝[かゞやき]の及ぶこと一部に多く一部に少し
我は聖光[みひかり]を最[いと]多く受くる天にありて諸々の物を見たりき」
(『神曲 (下)』天堂・第一曲1行~5行)

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
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感想投稿日 : 2024年3月1日
読了日 : 2024年3月22日
本棚登録日 : 2024年2月13日

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