OODA LOOP(ウーダループ)

  • 東洋経済新報社 (2019年2月22日発売)
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 数や力で劣る集団が、どうすれば規模の大きな相手に勝つことができるのかを、理論的に説明している1冊。

 1940年にフランスとイギリスの連合軍を破ったドイツ軍や1958年から始まったベトナム戦争で、アメリカの支援する南ベトナム軍に勝利した北ベトナム軍。他にも、サウスウエスト航空や日本の自動車産業など取り上げ、「規模で劣る組織がなぜ規模の大きい組織に勝つことができたのか」を戦争・ビジネスの2領域にまたがって分析し、その共通するルールを紹介している。

【自分より強い相手に勝つためには】
結論:自分より規模の大きい敵を倒すには、敵を心理的パニックに陥れ、闘う前に勝つ!

相手を心理的パニックに陥れるためには、
 1、アジリティ(機敏性)
 2、正と奇の効果的な利用
 3、OODAループ(=「正と奇」をアジリティをもって高速回転させる戦略)を行える組織作り
が必要!


【弱者が勝者を喰う、必殺の電撃戦戦略】
 電撃戦=機動力の高い兵力をもって、迅速に敵部隊を突破し、指揮系統を破壊する戦法
→弱者が強者を倒すには、機動力をもって闘うのがベスト!

 【機動力をもって闘うとはどういうことか】
(性能に劣るF-86が、MiG-16に圧勝し続けた)‐
 F-86が勝っていたのは観察できる範囲の広さと操縦のしやすさ
→「アジリティ(機敏性)」(=変化する外部環境に即応して、自らの方向性を変化できる能力)が優れていた
=敵より先に状況を観察・判断して、行動に移すことができれば勝てるんじゃね?という考え(要は敵が対応してくる前に攻撃してしまえ、と言う感じ)

→「非対称的高速遷移」=アジリティを活かし、敵より先に行動することで、敵に突発的で予想外の変化を発生させることで、敵を躊躇させパニックに陥れること。

「非対称的高速遷移」のイメージ
…「あなたが追いかけてくる民兵から逃げている状況を創造してもらいたい。(中略)あなたが土手へと駆け出し、川に飛び込んだとしよう。腰のあたりまでつかってしまうと、早く進めば進むほど、あらゆることが困難になると気づくだろう。あなたの命運は素早く動くことにかかっているが、それができない。頑張って動こうとすればするほど、フラストレーションがたまっていく。パニックに陥るのは時間の問題だ。そして、効果的な意思決定を行うことができなくなっていく」(P.116)

(アメリカ海軍の海兵隊マニュアル)‐
…「われわれの行動によって、不足かつ追いつくことのできない事態が次々と生じていく(非対称的高速遷移)なかで顕在化する脅威やジレンマを敵に強要しようとわれわれは模索する。究極的な目的は、パニックと麻痺であり、敵が抵抗しようとする意志を喪失することである」

【では何を「機敏に」すれば相手の心理を崩壊させられるのか】
=「正」と「奇」という2点セット
「正」=予測可能で、常識的なもの(例:戦闘開始時に敵の正面を引き付けている部隊)
「奇」=予測不能で非常識的、変則的でサプライズ要素があるもの(例:敵の側面や後方を機動力をもって攻撃する別部隊)
→適切に実行された「正」と「奇」の機動戦の最終的な帰結は、敵側のパニック、カオス、恐怖、崩壊などである
つまり、
=敵の予想もつかない行動(奇)によって相手は心理的動揺を引き起こす。そのためには「奇」が予測可能なパターンに陥らないよう、「正」を持ち合わせることが必須で、この「正」と「奇」の組み合わせが敵にとって「予測不能」になると、敵は現実に思考が追い付かずパニックに陥る。
→「正」と「奇」の組み合わせを敵よりも高速に回転させていくこと(=アジリティ(機敏性))で、敵より優位に立つことができる

=この一連の流れ、つまり「正」と「奇」を効果的に、そして敵より高速にシフトさせていく戦略を、
「OODAループ」と言う。

【OODAループとは】
=敵の予測可能なもの「正」と予測不能なもの「奇」を最適に組み合わせ、高速にシフトさせていくことで、敵を心理的なパニックやカオスに陥れ、崩壊させる戦略

OODAループのステップは
 1、観察(Observe):環境(自分や敵味方などの物理的、心理的な状況)を観察すること
 2、情勢判断(Orient):観察したことが何を意味するか
情勢判断し、自らを方向付けること
 3、意思決定(Decide):ある種の決定を行わなければならない
 4、行動(Act):その決定を実行に移さなければならない
であるが、これは例外的な場合で、
OODAループの基本的なステップでは
 観察→情勢判断→行動 のループになる
=意思決定(Decide)を行う必要性をなくしたからこそ、OODAループは「アジリティ」のある戦略なのである


【意思決定を飛ばす、OODAループが実行できる組織とは】
 1、相互信頼(一体感、結束力)
 2、皮膚感覚(複雑で潜在的に混沌とした状況に対する直感的な感覚)
 3、リーダーシップ契約(現場の主導性を高めるミッション)
 4、焦点と方向性(オペレーションを完遂するためのぶれない軸)

この4つが揃うことで、敵よりも先んずる1手を打てるチームになる

1:相互信頼→上司が何を意図しているのかを、部下が察知できるようになる。いちいち意思決定を下す必要なく、時間を短縮することが可能に。

2:皮膚感覚→部下が上司の意図を汲み取り、どう行動すべきかを、自分の感覚で判断することが可能に。

3:リーダーシップ契約→1,2があることで、上司は部下に、ミッション遂行に必要な権限、自由度を与えることができる。上司からの計画の縛りはなく、現場で動く者(部下)の主体性・主導性を促進する

4:焦点と方向性→どういった方向に向かうべきかを明確にし、そのために何に焦点を当てるべきかを現場の判断に任せ、それを状況に応じシフトさせることが重要。そのためには1~3までの主体的に行動させられる環境が必須である。

→状況に応じて焦点(あるビジョンに向けて統一された方向性の中で何に目を向けるか)をシフトさせられる能力が高い=アジリティが高い=OODAループを高速に回せている

『機動戦ハンドブック』を著したビル・リンドによれば、
「リーダーシップとモニタリング(監視)は信頼が無ければ価値のないものである。意図とミッションについての「契約」は信頼の表現である。それは、部下が自分の望むことを理解し実行するという部下に対する上官の信頼であり、自ら主導的に行動したとき、上官がそれを支持してくれるという上官に対する部下の信頼である」

=OODAループはそもそも部下が「自主的」「能動的」に動くことが前提→「能動的な」部下を持つ場合はリーダーは「内向型」の方が成果が上がる(『Quiet 内向型人間の時代』より)

【ここまでのまとめ】
Q.自分より強大な相手に勝つには?
A.相手を心理的パニックに陥れ、崩壊させる

Q.相手を心理的パニックに陥れるには?
A.相手より先に判断・行動し(=アジリティ)、相手の予想できない状況(「正」と「奇」の作用による)を作り出す

Q.それはどんな流れで行われるの?
A.観察(Observe)→情勢判断(Orient)→意思決定(Decide)→行動(Act)のループ。でも意思決定なんて基本的にはいらない

Q.意思決定を飛ばす、OODAループの理想的な組織とは?
A.チーム内での意思疎通に手間のかからないように、十分に経験を積むことで相互信頼やビジョン、個人の高い経験則が存在する組織(→組織全体のわずか0.5%ほどできれば十分らしい)

【ビジネスにおいてはどうなのか】
電撃戦とビジネスに共通する要素は多い。
→だってビジネスにおいてもスピードって大事だよね、という考え

【ビジネスにおけるアジリティ=スピードの目的】
アジリティ≠短期間で仕事をおこなう
=ビジョンに向かって仕事をする中で、何に焦点を当てるべきかを判断し、柔軟にシフトさせること(それを素早くループさせ続けること)

目的
 1、競争相手の体勢を崩すこと(不確実性、混乱、パニックなどを作り出し、結束力を粉砕し、麻痺させ崩壊をもたらす)
→戦争と同じ
 2、自社と顧客の両者が製品やサービスについて新しい捉え方ができるように導いていくこと=市場を形成すること→ビジネス特有
=顧客が期待していないことが「奇」になる
…日本の自動車メーカーの例:
70~80年代にかけて、アメリカの自動車市場を席捲。→オイルショックにより石油価格の高騰が発生し、燃費の良い日本車の需要が高まった。しかし、日本車が市場を広げたのはそれから10年ほどあとのことで、それ以降リードし続けた。
=日本車は、顧客の予想するもの(正)すなわち燃費の良さを用い、顧客の予想できなかったサプライズ(奇)すなわち、耐久性の良さやフィット感などで勝利した。

【PCDAサイクルではなくOODAループが必要な理由】
規模の大きい敵に勝つそして、顧客を確保するには、
「正」と「奇」の組み合わせを高速にシフトしていくことが必要。
→「奇」は相手の予測不能な要素、つまり数字や数学的モデルでは説明できない要素である必要がある。
(戦略家の中で共通する注意事項に、自分が予測できていることは相手も予測できていると思え というものがある)
=数字やデータをもとに立てた計画を基に行動する「PDCAサイクル」では、スピードも遅く、「奇」の要素を見つけることが困難である。
→往々にして「奇」は数字で表せられるものではない

そういった一見あやふやな「奇」を実行するには、
上司と部下の間に相互信頼がないよ不可能なことは明らかである。

W・エドワーズ・デミング曰く、
 「目に見える数字だけに基づいて会社を経営すれば、あまり時間のたたないうちに会社も目に見える数字も失ってしまうことになるだろう」

しかし、PCDAサイクルが悪いということではなく、
OODAループとPCDAサイクルは対照的なだけで、使い分けが必要である。

PCDAサイクル:予測データを用いて、不確実性の低いことを反復的に行う(財務管理など)ことに優れている。
OODAループ:前例がなく、事実データのみを駆使して、不確実性の高い、創発的な取り組みに優れている(新規事業の立案など)
 
【結局、OODAループとは】
めまぐるしく変わる外部環境を敵より先に、
観察、判断、行動することで、敵の心理的パニックを誘う戦略

「勝利する兵は、最初に勝ち、それから戦場に赴く。
一方、負ける兵は、最初に戦場に行き、そこで勝利を模索する」









 

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: フレームワーク
感想投稿日 : 2019年3月1日
読了日 : 2019年3月1日
本棚登録日 : 2019年2月27日

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