私はいま自由なの? 男女平等世界一の国ノルウェーが直面した現実

  • 柏書房 (2021年9月28日発売)
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「男女平等」とは、何において平等なのか、そして何のための平等なのか。著者は、フェミニズムが追い求めてきた女性の自由とその歴史を辿りながら、資本主義を前提とした今日の女性解放運動のあり方に疑問を呈する。

日本からは一歩も二歩も進んだ福祉国家に見える北欧諸国だが、経済中心的・男性中心的な社会的価値観の型に嵌められて葛藤し苦しんでいるのは、ノルウェーにおいてもその多くが女性だ。「男女平等」とは仕事上の議論でしかなく、そこに家庭や保育所に長時間滞在する子供の姿は見えない。福祉のためにはフルタイムの共働きが代償となる「ワークフェア」が規範とされ、仕事と家庭の両立に挑み続ける強さが求められる。このような現状に対し、著者は「1日6時間労働」を処方箋として提言している。

本書の主張には賛同するところが多く、日本においてこそ、このような踏み込んだ議論が必要だと思う。一方で、当然ながら「6時間労働」が全てを解決してくれる訳ではない。労働時間の削減・家庭時間の奪回は耳障りが良いし賛同もするが、一歩誤れば真っ先に被害を被るのは経済的・社会的弱者となりかねない。新自由主義的な政治イデオロギーの転換、経済中心・個人中心の社会通念に支配された個々人の意識変容、脱成長に伴う景気後退を乗り越える理論と制度など、課題は山積する。
また、本書で声高に叫ばれるように「子供と過ごす時間ほどかけがえのないものはない」ものの、これが強迫観念に変われば抑圧に苦しむ人も生まれる。一様の価値観という型に嵌めることもまた、別の側面で新たな強者と弱者を生み出すのではないか。目指すべき理想像は、多様な価値観と一人ひとりの幸福観が受容される社会なのではないだろうか?

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2022年11月23日
読了日 : 2022年11月23日
本棚登録日 : 2022年10月7日

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