実戦・世界言語紀行 (岩波新書 新赤版 205)

著者 :
  • 岩波書店 (1992年1月21日発売)
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感想 : 11
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タイトルが「実践〜」ではなく「実戦〜」となっていることが、著者の語学への心意気を示している。そこには外国語を極めようとか、言葉を通じて外国文化を汲み取ろうというような教養や愉しみは見えない。フィールドワークに費やされた彼の生涯において、外国語というものは、商売道具に過ぎなかったらしく、研究に必要な言語を必要なレベルだけ次から次へと会得してしまう。実際は、簡単に会得しているわけではなく、音韻論や言語系統学など言語学の基礎知識をフル活用しているのだが....さらには、不要になった言語を忘却してしまうというのが面白い(イタリアでは橋から数千枚の単語カードを投げ捨ててしまう)。全7章の大半を、こうした実戦体験を紹介してくれているが、最終章のみ趣が異なり、我が日本語の将来を語っている。著者に言わせれば、日本語=母国語という思い入れは少なく、日本語だって"One of a 言語" だし、強いて言えば、日本語に対しては左翼的といえるだろう。特に、漢字かな混じり表記という特殊性には批判的な態度で、アルファベットによる表音表記を提唱している。当然浮上してくる同音異義語の問題に対しては、表意文字の利用により、逆に日本語から同音異義語が淘汰されていくという理屈を述べている。かなり違和感を覚えたが、これには、執筆時点で、本人が視力を失い、音声や点字に頼らざるを得ないという事情が影響しているのだろう。漢字を読めなくなった盲人にとっては、表音文字しか存在しえないのだ。
それしても、よくもまぁこれだけの言葉を操れるものだと感心してしまう。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 新書 人文系
感想投稿日 : 2009年4月9日
読了日 : 2009年4月9日
本棚登録日 : 2009年4月9日

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