出版社の不人気文芸誌に異動させられた実藤。実藤の異動の直前に突然退職した篠原のデスクを整理している最中に『聖域』と題された小説の原稿を見つける。そこには魑魅魍魎と戦う慈明上人の壮絶なるストーリーが綴られていた。しかし、500枚以上の原稿はみかんであることに気がつく。作者の水名川泉の行方は、関係者も誰も知らない…。
いや、面白い。ここのところ、悪い言い方をすると"薄い"小説ばかりを読んできていたので、本作はゴッテリと重く濃厚だ。登場人物は実藤、泉以外はほとんど動かないし、多少何人も増えたところで、まったく「誰だっけ?」とならない配分がなされているのは、最近読んだ本の中でもずば抜けてよかった。
前半では作中作『聖域』のストーリーあらすじが記されるのだが、あらすじなのか本文なのかという振れ具合が少々ひっかかり、早く終わんないかなと思ってしまったのは事実である。
その後の水名川泉探しと、死後の世界を目の当たりにする、大きな事件こそ起こらなくなるものの、ゆらぎ繰り返される感覚も、冗長には感じない。最終的に結末を手に入れられるのか?ということすらどうでも良くなっていくのである。
口寄せ、イタコと死後の世界というのは、ちょっとやりすぎな感じはあったものの、篠田節子らしい切り口で、決して胡散臭かったり、必要以上に語るわけでない部分は好感が持てた。
長い作品だが、読む分にはさほど長く感じないのではないか。それくらい完成度は高い。
読書状況:読み終わった
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カテゴリ:
ミステリ
- 感想投稿日 : 2021年9月21日
- 読了日 : 2021年9月21日
- 本棚登録日 : 2021年9月21日
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