キャラクター原案を大好きな天野明先生がされているということもあり、いつかはアニメを観たいと思っているのですが、今回小説から入ってみました。アニメを観てないと理解しづらいのかなと思ってましたが、そんなこともなくこの近未来、巨大監視ネットワーク「シビュラシステム」に支配された「完璧な国」「完全な社会」に入り込むことが出来ました。
シビュラシステムによって測定された精神状態「サイコ=パス」さえ大丈夫なら何も心配することはない。シビュラ判定によって決定される適性な仕事に就けば間違いない。「シビュラ」に逆らわない限り自分の人生が悲惨なものにはならない……
「シビュラ」に管理されていることが当たり前の世界で生まれ育てば、そんな世界に対して何も疑問は持たないし、考えることもないのではないでしょうか。それはある意味、とても楽で幸せな生き方だよなぁと思います。
潜在犯でありながら「シビュラ」を維持するために«執行官»となり捜査の前線に立つ刑事たち。彼らと行動をともにする新人監視官の朱。彼女は、そんなシステムの矛盾に気づきはじめたのではないかと思います。「シビュラ」は本当に正しく完璧なのだろうか。
私にもじわじわと焦りにも似た不合理さが迫ってきます。「シビュラ」によって守られている安全な世界にいると錯覚に陥っているのかもしれない。「シビュラ」によって自分たちは支配され操られている世界を「正しい」「完璧」「幸せ」と履き違えているのではないか。
朱にとって、その最大な心の揺れは槙島と対峙したときだったと思います。犯罪者であるはずの男に、システムは犯罪者と認めず、潜在犯を撃つことが出来るドミネーターにはロックがかかります。かといって、槙島の投げた猟銃で殺せばシステムに反したこととなり、自分で殺したこと、つまり殺人者となってしまうのです。
シビュラシステムは本当に正しいのか。正しいこと、正しくないことを自分で考えずシステムに委ね、その意のままに動くことが人間の正しさなのか。そもそも「シビュラ」に支配されているこの世界では、人の意思は必要とされていないではないか。
犯行現場の惨劇さには二の足を踏んでしまいますが、それでも人間が生きていく上での本質や道理、矛盾、様々な問いかけを投げかけられているようで、上巻で放り出すことが出来ません。
- 感想投稿日 : 2019年12月26日
- 読了日 : 2019年12月26日
- 本棚登録日 : 2019年12月26日
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