料理が好きで海が好きで手紙が好き。
そんな作者の作る歌には、これらのものがたくさん散りばめられていました。
「この味がいいね」と君が言ったから七月六日はサラダ記念日
この歌が発表された頃、わたしはまだ中学生か高校生の頃でした。とても世間を賑わせた歌でした。なんだかとてもお洒落でスタイリッシュなイメージを思い浮かべてました。洗練された都会の恋人同士の会話、まだ少女マンガのような恋に憧れているだけの子どもには、遥か遠い存在のものでした。
でも、今読んでみると、また違う印象を受けました。一見、軽やかで恋人にネチネチと執着していないよう、わたしには見えた歌の奥に、あと少し相手の心に踏み込むことのできない戸惑いや、寂しさ、強がりが見え隠れしているように思えてきたのです。さらりと流れる音の余韻の中に“大好き”という感情が、まるはだかの状態でひっそりと息をひそめているようでした。
またこの頃は、今よりも時間の流れがゆっくりだったと思うのです。
大好きな人からの手紙が届くのを待つ時間。大好きな人を想いながら各駅停車の電車に揺られる時間……そんな恋する人たちにとって、とても大切だった時間が街中に溢れていたことを思い出しました。大好きな人を想う時間は愛おしいもの。
そんな時間を詠んだ歌に惹きつけられました。
『書き終えて切手を貼ればたちまちに返事を待って時流れだす』
『いつもより一分早く駅に着く 一分君のこと考える』
『会うまでの時間たっぷり浴びたくて各駅停車で新宿に行く』
『玉ネギをいためて待とう君からの電話 ほどよく甘み出るまで』
『金曜の六時に君と会うために始まっている月曜の朝』
- 感想投稿日 : 2018年10月31日
- 読了日 : 2018年10月31日
- 本棚登録日 : 2018年10月31日
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