江戸川乱歩全集 第1巻 屋根裏の散歩者 (光文社文庫)

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  • 光文社 (2004年7月14日発売)
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大正12年4月、月刊誌「新青年」に発表された処女作『二銭銅貨』から、大正14年12月に「映画と探偵」で発表された『接吻』までの最初期の傑作群22作品が、それぞれ〈自作解説〉とともに収録されている。

『二銭銅貨』をはじめ、『D坂の殺人事件』『屋根裏の散歩者』『人間椅子』と、乱歩初心者のわたしでさえ、タイトルは知っている作品が掲載されており読みごたえがあった。
特に面白く感じたのは、『二銭銅貨』『黒手組』『盗難』『屋根裏の散歩者』『疑惑』『人間椅子』。
それでも〈自作解説〉によると、『黒手組』は「あの小説は不出来である。」「探偵劇として成功したものでは無論ない。」と、けんもほろろ。
『盗難』なんて、『新青年』は専門雑誌だから、やっつけなものは書けない。自ずと他の雑誌のものは力が抜ける。『写真報知』に発表されたこの一篇なども、息休めに属する拙作であるとまで書かれている。おまけに「その癖稿料は『写真報知』の方が高かったのだから、妙なものだ」とひと言添えられてるのだ。あはは、ここまであっけらかんと暴露されても、嫌味なく面白おかしくまとまってしまうのは、乱歩の人柄の良さもあるのだろう。
そんなこともあって、乱歩先生にとって『新青年』に作品を書かない時は、創作力に自信を失っていることを意味するものであるらしい。
どちらの作品も面白かったんだけどなあ。

すべての作品に、このような〈自作解説〉がついているのだから、大変得した気分になる全集なのだ。

『屋根裏の散歩者』の解説では、「種切れで随分苦しんだ余りの作で、書上げて了った時はペチャンコになってしまって、もう俺は駄目だと悲しんでいたのが、案外好評で、またいい気になって次の小説を書き出した」という思い出が書かれている。ペチャンコになったり、駄目だと悲しむ乱歩って、どんな感じなのかな。先生には悪いのだけれど、想像すると何だか可愛いらしい文豪である。
明智小五郎にモデルがいたことを初めて知ったのは『D坂の殺人事件』。講釈師の伯龍という方らしい。「誰彼に『いい主人公を作り上げましたね』と云われ、つい引き続いて小五郎物を書くようになった」そうだ。この「つい」とか、『屋根裏の散歩者』での「いい気になって」となるのが、乱歩先生なんだなとニヤリ。
なかでも思わず吹き出してしまったのは『人間椅子』の解説。
横溝正史と二人で神戸の町を散歩していたときのことが書かれていた。
とある家具屋の店先に陳列された、大きな肘掛椅子を見つけ、店の人に椅子の中へ人間が隠れられるのか聞いたという。なんとも茶目っ気のあるお方ではないか。「横溝君はその時分から、私の何というか少々突飛な癖を、蔭ながら恥ずかしがってくれたものである。」の一節が、ふたりの関係を表していて、とても印象に残るものだった。

今回〈自作解説〉のおかげで、作品だけでなく乱歩自身にもとても魅力を感じ、興味を持つことができた。この全集は30巻もあるから、これからどんな乱歩に出会えるか楽しみだ。数年はかかるだろうけど、気長にぼちぼちと追っかけてみよう。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 日本文学:著者あ行
感想投稿日 : 2020年11月13日
読了日 : 2020年11月13日
本棚登録日 : 2020年11月13日

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