三木笙子さんの今回の物語の舞台は、昭和の新宿です。干拓工事がほぼ決まってしまった竜頭湖を守っていた神主の櫂は、湖を離れ東京で探偵社を開き生きていく決心をします。共に湖の傍で過ごした幼なじみの慎吾とは、東京に出てきてからも友情は続いていました。けれど慎吾にとっての櫂への思いは、彼を裏切っている罪悪感、自分は櫂の敵だという口に出せない思いに苛まれているものでした。そのワケは湖の干拓を進めているのが、自分も属する父親の会社だったからなのです。櫂は自分のことをどう思っているのか、それを知るのが怖いのです。
櫂の探偵社に持ち込まれる謎は、今回も時代とマッチングしているような昭和の空気を感じられるもので楽しめました。特に第三話『好条件の求人』では、あの麗しの有村礼さまのお名前と版画が登場されるとは、おおっ!感激です。ご本人は登場されていませんが、別作品の登場人物と意外なところで偶然ばったりってのは嬉しいモノですよね。でも、70歳を超えておられるのか。想像出来ない・・・けれど今でも美貌は衰えていないとは、さすがです。それなのに礼さまを爺さん呼ばわりするとは、慎吾のやつめぇぇ!その礼さまの描かれた『別れの雨』は美人画ではなく、男性とのことで、たぶんこれはあの人がモデルだろうな・・・と。えーん、どんな別れだったの?興味のある方は『帝都探偵絵図』シリーズをどうぞ。
ちょっと(だいぶん)横道にそれましたが、ラストの謎はお伽噺のような櫂の正体に触れ、さらに苦しい胸の内を吐き出した慎吾が櫂の包み込むような大きな愛によって心の棘を溶かされる、ふたりの絆が一層深まるような余韻を感じさせるものでした。タイトルもそのままズバリ納得ですね。
- 感想投稿日 : 2016年10月18日
- 読了日 : 2016年10月18日
- 本棚登録日 : 2016年10月18日
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