小説の題名でAnkとは、主人公鈴木望が、激しい戦闘地帯南スーザンの首都ジュバで保護されたチンパンジーにつけた名前です。
古代エジプトから発掘された王だけが使うことが出来る鏡の名前に由来する。
ウガンダの密猟者によって運ばれていた途中―密猟者にとって、チンバンジー・ゴリラは宝石と同じだという。ワシントン条約違反等でドライバーは逮捕された。しかし、紛争地にある南スーザンに高度な知能を持つチンバンジーを保護する場所はなく、受け入れ先を探していたところシンガポールの霊長類研究プロジェクトが飼育用のチンバンジーを探していた、と。
望の研究論文は、科学雑誌に掲載されたものの世界中の誰にも注目されなかったし、問い合わせもなかった。たった一人を除いては。
望は、その論文について考えれば考えるほど落胆していた。欲しいのは評価そのものではなく、研究のできる環境作りであって、そのため結局〈霊長類研究者鈴木望〉への注目と予算だった。
そんなとき、望の衛星携帯電話が鳴った。もう一人の主人公ダニエル・キュイからだった。当時名もない霊長類研究者であった鈴木望の論文を読み、望と直接面接してからのことだった。AIのシステムを開発し巨万の富を得た。しかし、ある理由からAIに抱いていた不満があり、開発の母体である組織を撤退し売却してしまったのだ。
なぜ手放したのか?
ダニエルは、シンガポール人・北米ビジネス誌が選ぶ〈世界で最も影響力のある百人〉に名を連ねるAIの研究者・開発者だった。彼は、京都市中央区の〈スターバックス〉にやってきた。
『突然呼び出してすまなかった、どうしても君に会ってみたくてね』、店内に顔を覚えている客はいなかった。数百億ドルの資産をコントロールできる彼が、注文の珈琲二杯は、彼がポケットに手を入れ小銭を出して奢ったのだ。
後日譚、ダニエルは、その当日〈スターバックス〉を借上げていたのだ。しかも、プライベートジェットで伊丹空港に着陸し来日したのだ。以後KMWPセンターをダニエルが十億ドルを出資し設立した。
小説の章ごとに日付があり、過去から未来へ、未来から過去へと繰り返す。そして未来に暴動が起こることを示唆する。
その暴動については原因も何もわからない。
いくつもの章の冒頭でカウントダウンされ、暴動が迫ってくるドキドキ感は読みどころだと思う。
小説の本質は、数千万年前から現在そして未来へと繋ぐメッセージだと思う。
読書は楽しい。
- 感想投稿日 : 2022年3月27日
- 読了日 : 2022年3月27日
- 本棚登録日 : 2021年9月1日
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