社会契約論 (岩波文庫 青 623-3)

  • 岩波書店 (1954年12月25日発売)
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「フランス革命に影響を与えた」とよく言われるが、本書は“市民の権利”を説いた本ではない、ということに注目したい。
国家は私的利害を超えた市民の公共心(一般意思)によって維持されるべきだ、とルソーは説いたのであり、すべての市民が自己を国家に委ね、等しく責任を負うべきであると訴えたのだった。
だからこそルソーは、国民すべてが兵役の義務を負うべきであり、「法によって危険に身をさらすことを求められたとき、その危険についてもはや云々することはできない」(p54)と主張するのである。

このような考え方は明らかに現代日本の政治には合致しない。
佐伯啓思氏は「ルソーの論理を具体的なかたちで突き詰め現実化すると、まず間違いなく独裁政治、全体主義へと行き着かざるをえない」と指摘する(『人間は進歩してきたのか』p135)。
それは確かにそうかもしれないけれども、本書が出版された時代に比べて権利意識の成熟した社会においては、“市民の義務”についてもう一度考えてみる価値があると思う。

ルソーはまた「一般意思は代表されえない」として、直接民主制の論理的妥当性を訴えた。
彼は当時すでに代議制を敷いていたイギリスの国民を指して次のように言う。
「彼らが自由なのは、議員を選挙する間だけのことで、議員が選ばれるやいなや、イギリス人民はドレイとなり、無に帰してしまう。その自由な短い期間に、彼らが自由をどう使っているかをみれば、自由を失うのも当然である」(p133)

この言葉を聞いてギクリとしない日本人は、おそらくいない。

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感想投稿日 : 2014年8月22日
読了日 : -
本棚登録日 : 2012年5月19日

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