人ならぬものとの恋の物語、すなわち人造人間と恋をする話なのだ。
著名な発明王、トマス・エディソン(をモチーフにした著者の独自設定エディソン)のもとに、知り合いの青年貴族が訪ねてくる。
青年は、複雑な恋愛に悩み憔悴しているという。
恋人がいるのだが、その外貌は非の打ち所がない超絶美人でいながら、魂が俗物すぎて一緒にいるのがツライ。
あまりにもロマンチストすぎる青年は、その悩みのために自殺しようと考えているところだった。
エディソンは、かつて貧乏だったころにその青年に救ってもらった恩があることから、自らの発明を以ってその悩みから解放して進ぜましょう、と申し出る。
自分の発明した人造人間を、青年の理想の女性に昇華させたうえで提供しようと言う。
ふたりは女の性質・本質がどのようなものであるかを議論し、エディソンは提供する人造人間の特性や仕組みを延々と詳細に説明していく。
果たして「科学」は、青年の恋の病を癒せるのだろうか。
そして人造人間の正体とは……。
というような話です。
作者のヴィリエ・ド・リラダンが詩人だったためだろう、使われている言葉がものすごく多彩です。
抽象的な言葉づかいも多くて、文章を読むのは少し疲れるかもしれない。
ギリシア神話や聖書、シェヘラザードの千夜一夜物語みたいな有名な逸話をたくさん引用している。
かと思えば、人造人間の製造・動作の仕組みを説明する科学用語もバンバン出てきて、科学と幻想の入り混じったような特徴的な文体になっている。
人造人間を表す意味する「アンドロイド」という用語が初めて使われた作品でもあるという。
登場するエディソンの秘密の研究所やわけのわからない発明品にトキメきます。
科学者でありながらロマンティックなことも言う。
最初のところで、エディソンが登場して独り言をしゃべる場面があるんですが、これがまず面白い。
「俺は人類の世界に生まれてくるのが遅すぎたよ……」みたいなことを嘆くのです。
曰く、俺は人類最初のひとりに生まれていたら、神代の時代、聖書の時代の音声をそのままに録音できたのに!というようなことを独りごちる。
発想が素晴らしいですね。
「光あれ」という言葉や黙示録の天使のラッパの音を蓄音機に録音したり、ソドムとゴモラの滅んでいく様を活動写真に収められたら、どんな素晴らしいだろうか!というようなことを発明王に言わせるのだ。
人造人間の描写が長々と続くところが読みにくいかもしれませんが、のんびりと我慢して読み進めれば、幻想的な雰囲気に浸れる逸品です。
- 感想投稿日 : 2016年5月9日
- 本棚登録日 : 2016年5月9日
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