黄色い家

著者 :
  • 中央公論新社 (2023年2月25日発売)
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感想 : 179
3

クライムサスペンスだけど、私は依存の物語、と読んだ。

主人公の花が、お金のため、そして、友情のために犯罪に手を染めていく物語。

花は、中学生のころに、「黄美子さん」に親切にしてもらう。
そして、数年後に出会った友人である蘭と桃子と意気投合し、それまでになかったほど、明るく楽しい日々を過ごす。

けれど、それは長くは続かない。
きっと花が求めるラインが高すぎたというか、他人に期待しすぎるってこういうことなんだなって、胸が痛くなる作品でした。


花は、ずっと友情や、愛情に依存していた。
それをもっともらいたくて、黄美子さんたちと同居したりした。
そして、みんなの気持ちが離れていくのに無意識下で気づいて焦っていたのだと思う。
ヴィヴさんに、なぜ花だけがお金を稼ぐ必要があるのか、と問われたときに答えられなかったのが、すごく印象的だった。

花は、ずっと依存していたのだと思う。友情に、黄美子さんに。
正確に言うと、黄美子さんに親切にしてもらった中学時代の一か月間に、そして、一番蘭と桃子と仲が良かった数か月間に。
ずっと同じことが続くわけじゃない。物事は移り変わる。みんなが同じ気持ちになれるのってきっと一瞬なんだ。みんなはきっとそのことがわかっていて、すぐに気持ちの切り替えがつく。でも花は違った。ずっと縋ってしまった。
みんなの気持ちをつなぎとめるためにお金を使っていたというのは、確かに最後に桃子が言っていたことは正しかったのかもしれない。
みんなの気持ちが離れる度、花は焦って、でもそれに気づかないふりをしていたんだと思う。
黄美子さんについては、もしかしたらずっと、花に興味を持っていなかったんじゃないかなと思ってしまう。

蘭や桃子が、気持ちが離れたことについて、もっと早く、花にちゃんと話していれば、きっとこんな犯罪に手を染めるようなことはなかったのだと思う。
けれど蘭と桃子も自分自身で気づいていない。少なくとも、花が求めるレベルが高くて、そこに達していないのだということには気づいていない。
気づいていたとしても、言い出すほどのことじゃないと思っただろうけれど。
時間がたつにつれ、みんな引っ込みがつかなくなっていった。


人は忘れる生き物。
狂ってしまっても、治癒する。
つらい記憶は、忘れる。
けれど、輝かしい記憶は、忘れられない。

狂ってしまった花も、20年を経ると、治癒していた。
けれど、輝かしい記憶だけは、失うことができていなかった。

もしかしたら、と思って、蘭や黄美子さんに会いに行く。映水さんに電話する。
(黄美子さんを救わなきゃ、とか、黄美子さんのことを相談しなきゃ、と言っていたけど、本当は違うと思った)

彼らにとって、すべて終わったことだった。
だけれども花は、いつまでも、あのころの黄美子さんの記憶に縋ることになるのかもしれない。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2024年4月12日
読了日 : 2024年4月12日
本棚登録日 : 2024年4月12日

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コメント 1件

うさぎのしっぽさんのコメント
2024/05/04

昔何かで、親からの愛情を幼少期に与えてもらっていない人は
愛情不足を他人で埋めようとしてしまうけれど、
結局家族でもない他人からの愛情というのはそこまで強いものではなく
求め続けてしまうが故に、上手くいかないことが多い、という話を聞きました。
さつきさんの感想を読んで、花ってそうだったのかなぁということを
ふと思い出してついコメントしたくなりました。

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