にこたま(5) <完> (モーニング KC)

著者 :
  • 講談社 (2013年4月23日発売)
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本棚登録 : 539
感想 : 71
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【愛していなくても、結婚できる。家族も作れる。幸せにもなれる、という回答。或いはお茶碗を欠けさせたことについての罰】

まず最初に特筆したいのは、この人はこんなに絵が上手かったのか!っていう驚き感。特に、最終話のあっちゃんの表情は「愛していないこと」と「幸せであること」を見事に表現しきっている。こういう、表情で描けるマンガ家さんは素晴らしいと思うね。感じとしては、「いちごの学校」を彷彿としました。


浮気した男の人とそれを許してつきあい続けるのって、欠けたお茶碗を使い続けるみたいなことだな、と思っている。欠けた部分って絶対に戻らないし、忘れたふりをしても結局そこからひび割れが広がっていく。

幸せなあっちゃんの最後の台詞は「おかえり 琴子」である。
この瞬間の「晃平」の不在こそが、晃平のしたことに対する答えなのだ。
あっちゃんは「(愛していないけど)家族を作りたいから、その構成要素になってよ」という。それは「大好きだから一緒に家族を作ろう」というのは大きな隔たりがある。

だけど一方で、30も近くの女としては、この鳥が巣作りでもするような建設的さは非常によく分かる。
良い?家族になる人を「条件で選り好み」するのなら、10年つきあった男以上の人はいない。そういう結論。そういう結論なんです。だけども、それでも幸せにはなれるって言うことなんです。
ポケモンショックみたいなのも、わかる。でもそれってきっと10代20代の恋だから、今更幾ら食い入るようにテレビを見たってそんなにピカチュウは光らない。安全対策されてるから。十分に。


また、もう一個このマンガを読んでいて考えさせられたけど、この話ってたぶん男の人と女の人と読んだ時の受け取り方が相当違うんだよね。
だって、もう、女の視点で読んでると、一択高野さんと結婚(或いは、そこまででなくてもあっちゃんとは別れて、高野さんに養育費など金銭的に援助)で当然だと思うんですよね。
まあ、そうすると寝取った女得という問題も出てくるは出てくるんですが、とにかく晃平が終始最低の男過ぎる。
浮気して出来た子供がまだ浮気相手の腹の中ですくすく育っている状態で、「そろそろ結婚しても良いんじゃ無いか」とか思ってプロポーズ。「俺、あっちゃんに責任負いたいんだよ」の台詞には、全女子が「お前が責任持たなきゃならんものは他にあるだろ!!」と全力突っ込みを入れたハズ。

でも、男の人側からは「一回の過ちなのに、産むって強行した高野さんの責任。むしろ晃平は被害者だし、それなのにベビーベッド組み立てたりして優しいなー」なのかなって思った!じゃないとこんな最低男描けないよ!
もうね。子供が出来ることの責任は、子供を生むことを決断したことにより発生するんでは無いという点を、もう一度確認しておきたいですよね。その、子作り行為即ちセックス&射精に発生していると言うことを確認しておきたい。真剣に射精しても、不真面目に射精しても、生命が生まれたからには責任取らんといけないのですよ。


そして、そんなこともまともに出来なかった最低の晃平君は、冒頭に述べたような甘い罰を受ける。

ううーん、これ以上の最後は、なかったかもね。
だって、高野さんと結婚して子育てしても、あっちゃんとやり直すことになっても、あっちゃんとも高野さんとも別れることになっても、結局全部高野さんとあっちゃんが負担を負うだけで、晃平はなんにも困らない勝ち逃げコースだったんだよね。
そこで、「愛してるけど、愛されない」幸せな生活を一生送る、ということ。
欠けさせたお茶碗のことや、産まれた子供(晃平が責任を全く取らなかった子供)のことを考えれば、これ以上の結論は無かった、かもね。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: マンガ
感想投稿日 : 2013年4月23日
読了日 : 2013年4月23日
本棚登録日 : 2013年4月23日

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コメント 2件

さとみんさんのコメント
2013/04/29

>幸せなあっちゃんの最後の台詞は「おかえり 琴子」である。
この瞬間の「晃平」の不在こそが、晃平のしたことに対する答えなのだ。

自分もラスト読んで「おや?」と違和感あったのですが、
↑のように書かれていたのを見て、ぞわっとしてしまいました。
ほんと、その通りですね。

tokyochocolateさんのコメント
2013/04/30

ありがとうございます。

あっちゃんが、晃平を選んだもう一つの理由は、あっちゃんは子供か産めないと言う負い目があるけど、晃平は浮気して外で子供がいるって負い目があるからですよね。
石田さんの「自分の子供を抱く機会」を奪うことには躊躇して身を引いたのに、晃平には「養子を取るための父親役をやってくれ」と言う話を持っていけてしまう。それは、やっぱり「まあ、君の子供はもういるしね」という晃平の弱みをついて、なりふり構わず家族を作ろうとするあっちゃんの強い意思を感じます。

女の人は赦したりしないということがガッツリ書かれている話だなぁと思いました。
それであれどうであれ、幸せにはなれる、ということも。

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