少ないもので料理する シンプルな台所で、ミニマム・クッキング

  • 幻冬舎 (2021年12月16日発売)
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ドミニック・ローホー著、原秋子訳『少ないもので料理する シンプルな台所で、ミニマム・クッキング』(幻冬舎、2021年)はミニマリストの料理生活を語る書籍。シンプルな道具を使ったシンプルな料理を推奨する。SDGs; Sustainable Development Goalsで合致する生き方である。

ミニマリストの生活は無駄な消費をしないことである。「無駄を出すことは恥ずかしいこと」である(181頁)。不要なものを捨てることを目的化した勘違いがあるが、それで新たな消費をするならば無駄である。消費をして金を循環させるという昭和の経済観念の否定になる。

食材の値段と味は比例しない。「トリュフ、オマールエビ、キャビア等の贅沢な食事はもちろん美味しいものです。でもじゃが芋や玉ねぎのグリルでも、実は唸るほど美味しくできます」(208頁)。リーズナブルな食材を美味しく食べる。

飽食を否定する。コース料理のアンチテーゼになる。「1食分が全部同じ皿に盛りつけられ、尚且つ美味しそうで、片付けも簡単とくれば文句なしです」。その究極の形式が「ボウル一つのリラックスとした食事」になる(113頁)。本書のファーストフードやジャンクフードと逆の立場であるが、ハンバーガーも炭水化物と蛋白質を同時に摂取する食事である。本書はピザやラーメンにも言及しており(130頁)、ジャンクフードを否定している訳ではない。

テレワークが料理を始める新たなきっかけになる可能性を指摘する(161頁)。テレワークはITを利用した新しい働き方であり、スローフードの提唱者の中には昭和の対面コミュニケーション至上主義を前面に出して頭ごなしに嫌悪する論調もある。その種の頭の固さは本書にはない。

巨大スーパーは余計なものを買ってしまう(160頁)。私も巨大すぎるスーパーは好きではない。売り場を歩くだけで疲れてしまう。

本書は料理を勧める。料理をすることは思考の整理になる。漫画『絶対可憐チルドレン』の皆本光一も料理で考えを整理していた。但し、凝った料理を勧めている訳ではない。最小限の手間暇で工夫を凝らした美味しい料理を目指す。テレビ番組にあるような情熱的な料理ではない(190頁)。あくまでシンプルな生活である。

本書は友人の以下の言葉を紹介する。「家でステーキを焼くことは滅多にありません。肉を焼く時の臭いに私が吐き気を催すからです」(260頁)。住宅地のバーベキューが近隣からバーベキュー公害と批判されるが、このような感覚もあるだろう。

本書の特徴は文学作品を豊富に引用していることである。村上春樹『ねじまき鳥のクロニクル』のエピソード(25頁以下)が印象に残った。主人公の岡田亨はハムとトマトのサンドイッチを作っている最中に電話が鳴るが、電話をとらない。電話で作業を中断されることを嫌ったためである。

電話は一方的に生活に侵入する迷惑なものである。電話ではなく、メールでコミュニケーションすることは大きな進歩である。メールは非同期で対応できるためである。ところが、メールを携帯メール中心で考えると、即座に返信することを強要するような風潮が出てくる。非同期の価値を損なうものであり、滑稽である。

岡倉覺三著、木下長宏訳『新訳 茶の本』は現代社会の問題点を「値段の高いものを欲しがり、洗練されたものを欲しがりません」と述べる。ここには価格が高いものが洗練されているとは限らないという前提がある。値段と価値は比例しない。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: エッセイ
感想投稿日 : 2022年1月29日
読了日 : 2022年1月29日
本棚登録日 : 2022年1月29日

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