冤罪の恐怖 人生を狂わせる「でっちあげ」のカラクリ

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  • SBクリエイティブ (2011年2月25日発売)
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冤罪の問題を取り上げたノンフィクションである。足利事件や布川事件などの具体的な冤罪事件を解説する。後半は取り調べの全面可視化など冤罪をなくすための提言を書く。

冤罪は国家による犯罪である。冤罪により刑罰を受けた人は、国家権力によって人権を侵害される(『冤罪白書』編集委員会『冤罪白書 2019』燦燈出版、2019年)。見込み捜査によって今までの人生は台無しにされる。市民の幸福を盗み、名誉を踏みにじり、自らは点数稼ぎをする。名誉回復の仕組みは十分ではない。これからの人生も台無しにされる。

冤罪が生まれやすくなる背景として法律の恣意的な運用がある。欧米の共通の制度として罪刑法定主義がある。違法か違法ではないかを明確に定める。ところが、日本では警察官や検察官の裁量が大きい。法律の恣意的な運用は日本の行政のあらゆる場面に見られる悪癖である。一貫した理由の説明はアカウンタビリティの観点から当然に求められる。

「法律の恣意的な運用をやめてください。収容する時も、仮放免の許可を出さない時も、次回の仮放免期間あるいは仮放免申請時に参考にすることができる一貫した理由を、個別ケースに応じて明らかにしてください。」(「入管庁は、非正規移民の長期・無期限収容をやめてください。ハンストを無視せず、恣意的な収容行政をやめてください」)

「警察・検察による自白強要、それを鵜呑みにする裁判官。真実は何処に。はっきりしています。警察・検察が、ちゃんと手持ちの証拠を全面開示すれば一目瞭然です」(「傍聴席」救援新聞、日本国民救援会東京都本部、2020年1月25日)

組織内での初動対応によってその後の被害が大きく変わってくる。多くの事例では警察の捜査に問題があっても、外部から指摘を受けるまで問題化することはない。自組織で自発的に行うべき見直しがなされていない。情報公開がなされず、実態を正確に把握できなければ、警察不祥事の対応も困難になる。風化はしない。むしろ問題は拡大する。

「海外では、真実究明を目的とした再審請求調査部門を検察庁に置いたり、独立した調査委員会が誤った判決の原因を調べたりする事例もある。冤罪をなくすために、こうした制度の整備を急ぐべきだ」(「元看護助手無罪 供述弱者守る仕組みを」秋田魁新報2020年4月3日)

本書は警察の中でも神奈川県警や埼玉県警、兵庫県警という東京や大阪に隣接する警察組織の質という構造的な問題を指摘する。「首都圏や関西圏の警察が、地方のあちこちの県警と共同で1次試験を行い、2次試験は地方に出かけて行ってやる「共同試験」という仕組みもある。受験者は地元警察を第1志望とし、首都圏や関西圏の警察を第2志望にするパターンが多いという」(120頁)

実際、これらの警察では警察不祥事が目立つ。埼玉県警の桶川ストーカー殺人事件は警察の体質批判の先鞭となった。近時の警察不祥事では警察官が職務を騙って犯罪を行う警察詐欺・警察犯罪が目に付く。これも埼玉県警が先鞭である。草加署巡査(22)は死体検案名目で遺族から現金82万円をだまし取った。川越署巡査(25)は遺族に遺体の防腐処置費用として現金50万円をだまし取ろうとした。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: エッセイ
感想投稿日 : 2023年2月28日
読了日 : 2023年2月28日
本棚登録日 : 2023年2月28日

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