振り込め犯罪結社 200億円詐欺市場に生きる人々

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  • 宝島社 (2013年11月22日発売)
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振り込め詐欺被害が依然として深刻である。振り込め詐欺は詐欺被害を出すだけでなく、大麻や危険ドラッグのような依存性薬物と同じく半グレなど反社会的勢力の資金源になる。被害防止は資金源を断つ上でも重要である。しかし、プレミアムフライデーに見られるような民間の働き方を無視した公務員感覚では振り込め詐欺被害防止効果は低いだろう。

振り込め詐欺は手口が大きく報道されているにもかかわらず、被害が中々減少しない犯罪である。依然として被害者が出る理由は、被害防止の訴えが説得力を持たないためだろう。何しろ警察官自身が振り込め詐欺をしている。京都府警山科署勤務の巡査長は2018年11月に特殊詐欺対応を名目として70代の高齢男性から現金1180 万円をだまし取った。

神奈川県警第1交通機動隊の巡査(24)は2019年10月に「振り込め詐欺の犯人を捕まえた」ため、キャッシュカードの保全措置をすると偽り、高齢者からキャッシュカードを受け取った。この日の夜にカードから横浜市都筑区内のコンビニで50万円が引き出された。これらは警察が特殊詐欺対策をしていなければ起こらなかった犯罪である。市民が警察のメッセージを聞かなくなることも無理はない。

内容面でも民間感覚を理解していないと感じられる。振り込め詐欺の典型的なパターンは息子を名乗る人物から電話がかかり、「今日中にXX万円を用意しないと、契約できず、会社を首になる」というものである。振り込め詐欺被害防止のアナウンスは、「このような依頼にだまされないようにしましょう」というトーンになる。しかし、これは引っ掛かりそうもないような単純な手口であるが、その時となると気が動転してだまされてしまうという問題ではない。

どうも詐欺被害防止のアナウンスを見聞きすると、「今日中にXX万円を用意しないと、契約できない」というような事態が起こりうるという民間の現実を理解していないように感じられる。この種の依頼は嘘だと頭から決めつけていると感じられる。この種の依頼を信じることが愚かという感覚が背後に見え隠れするが、民間感覚への無知を物語る。

納期意識に欠ける公務員仕事ならば今日中にできなければ明日やればいいという働き方で済むかもしれない。しかし、民間では今日中にできるかできないかが問題です。今日できなければ明日やるということにはならない。今日できるか、できないかになります。できないならば会社を辞めた方が良いということもあるだろう。それが民間感覚の責任の取り方である。

今日できなかったら、頑張って明日遅れを取り戻すという次元の話ではないこともある。昭和の「頑張ります」精神は有害である。頑張ることを強要するならばパワハラ(パワーハラスメント)になる。頑張ることを強要させられるならば、やはり辞めた方が良いとなるだろう。辞めることで救われる。

中には「自分は頑張っても無理な人には頑張れとは言わない。頑張ればできる人にだけ頑張れと言う」として頑張ることの強要を正当化する差別主義者もいる。これは差別的なパワハラになる。頑張っても無理な人に「頑張れ」と言っても結果に結びつかない。それは単なる精神訓話にしかならない。むしろ頑張ればできる人に頑張れと言うことこそ人を苦しめるパワハラになる。

頑張れと言う人を軽蔑し、無理するなと言う人に感謝する。頑張ればできると言う人を敵視し、できなくて当たり前と言う人に好感を持つ。目の前の問題を解決するという自分の点数稼ぎのために個人に負担や我慢を押し付ける輩は最低である。

目の前の自分の仕事を解決することしか考えない公務員感覚では振り込め詐欺被害さえ発生しなければ良いとなり、その確認で今日中の作業ができなくても知ったことではないとなる。そのような公務員感覚で振り込め詐欺被害防止を訴えても、民間には届かない。

このように考えた背景にはプレミアフライデー(Premium Friday)という勘違い働き方改革施策がある。長時間労働対策として月の最終金曜日の早帰りを推奨する施策であるが、月の最終金曜日は月の最終営業日になることが少なくない。

グローバル化により、四半期決算という短期的な視点が重要性を増しているが、四半期の最終営業日にもなることもある。その日でなければできないこともある最も忙しい日に早帰りを強要することになる。これを問題と認識しないことが公務員感覚ならば振り込め詐欺被害防止もピント外れになる。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 住まいの貧困
感想投稿日 : 2021年8月1日
読了日 : 2021年8月1日
本棚登録日 : 2021年8月1日

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