湯浅誠『貧困襲来』(山吹書店、2007年)は日本社会に広がる貧困問題を取り上げた書籍である。著者は貧困者を食い物にする「貧困ビジネス」を告発するなど反貧困の分野で精力的に活動している人物である。
『貧困襲来』から貧困問題が社会的・政治的に解決されなければならない問題であることが理解できる。貧困問題を抱える現代日本のガンはゼロゼロ物件などの貧困ビジネスである。貧困ビジネスは社会的な弱者を食いものにする。貧困ビジネスは貧困を拡大再生産することで利益を上げている。貧しい人から搾取する貧困ビジネスは格差を拡大する要因になっている。
貧困ビジネスの増殖は福祉政策の貧困が背景である。貧困ビジネスは福祉が機能していないところに生まれる。貧困ビジネスは行政が手を出さなくなった領域で収益を上げている。それ故にゼロゼロ物件などの住まいの貧困の解決策として公営住宅を拡充することは正論である(林田力「マンション建設反対と公営住宅」)。
貧困ビジネスを野放しにすれば貧困層は搾取され続ける。貧困ビジネスは規制しなければならない。現実に反貧困の市民運動の活動により、ゼロゼロ物件業者を宅建業法違反で業務停止処分に追い込んだ例がある(林田力「住宅政策の貧困を訴える住まいは人権デー市民集会=東京・渋谷」PJニュース2011年6月15日)。
http://www.hayariki.net/0/faqindex.htm
厄介なことに貧困ビジネスは公的なセーフティネットが機能不全になる中で立派な社会資源の一つとして認知されつつある。そのために目の前の現実論として貧困ビジネスがなくなると貧困層は益々困ることになるという類の議論すら生じる。
この種の欺瞞的な議論は労働者派遣法でもなされている。「年越し派遣村」に象徴される正規から非正規への置き換えは格差社会の要因であるが、労働者派遣を規制強化すると派遣労働者の働き口が減るとの議論である。ゼロゼロ物件などの住まいの貧困と非正規やワーキング・プアの問題は密接に関係している。
実際は住宅に困っている人々にゼロゼロ物件を紹介することは、金に困っている人にサラ金を紹介するようなものである。ゼロゼロ物件は悪であって、必要悪では決してない。
- 感想投稿日 : 2012年6月15日
- 読了日 : 2012年6月15日
- 本棚登録日 : 2012年6月15日
みんなの感想をみる