塾で国語を指導した経験に照らしながら読みましたが、本書の批判には同意することばかりでした。
冒頭では、一部の国語の授業の酷い実体について触れられています。「生徒と一緒に授業を作ろう」という話は、読んでいて「マジか!?」と驚きました。いや、そんなことやってるから読解力がつかないんだよ、と。
そうでない普通の授業にしても、国語の授業は往々にして個別文章の鑑賞がメインだったように思います。説明文や論説文の解説は文章の分析が主だったので物語文・小説よりはマシでしたが、それでも文章読解のルール(接続語や指示語の働きと使い方)をツールとして教わった記憶はほとんどありません。(私に関して言えば、国語の問題のルールと解き方・考え方を明示的に習ったのは大学受験予備校でした)
あと、個人的にうんうん頷いたのは、本読みの宿題について。私が本読みをサボりまくって、先生や親からババちびるくらい叱られた経験があるということを捨象しても、音読の技術は授業の中で教師が教えるべきであり、それを家庭に丸投げしているのはおかしいと言わざるを得ません。
入試国語の問題点でも、うなずくものが多かったです。
しかし、入試問題はまだマシで、市販の問題集の中には本当に酷い問題があります。授業のために自分で解いてみると、問題集によっては答えようがない問題に行き当たることがあります。そういう問題は解説を読んでみても納得がいかないものが多く(多義的な解釈が可能な文脈で、恣意的な判断によって答えを一つにしているものがほとんどです)、設問・解答・解説に疑義を呈したくなるものばかりでした。
そんな経験があっただけに、「確かにそうだよなぁ」と思いながら読んでいたのですが、本書で「そんなこと聞いても仕方が無い」というタイプの悪問(レベルの低い問い)の指摘があったのには目から鱗でした。言われてみるとそのとおりで、聞いてもしょうが無いレベルの愚問も悪問と言うべきでしょう。
入試から小説をカットしろという提言は大胆にも感じましたが、センター試験の正答率40%の悪問を見せられると説得されました。
著者は、国語で培うべき能力を論理的思考力であるとし、論理的思考力とは関係を整理する力であると定義しています。そして、論理的思考力は、「言いかえる力」(同等関係を整理する力)・「くらべる力」(対比関係を整理する力)・「たどる力」(因果関係を整理する力)の三要素から成り立つものであるとしています。
これは国語力の本質を一番使いやすい形で定義したものだと思います。国語で一体何の力を身につければ良いのか、それがわかりやすくまとまっているからです。そうでなくとも国語って何をやっているのか今イチハッキリしない科目ですから、こういう何を獲得するかが示されているだけで学習効果も全然違ってくるはずです。
国語教育の問題点がコンパクトにまとまっているだけでなく、論理的思考力の本質もわかりやすく示されていて、非常にコストパフォーマンスの高い一冊だと思います。
- 感想投稿日 : 2012年8月24日
- 読了日 : 2012年8月24日
- 本棚登録日 : 2012年8月24日
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