タイトルどおり、死刑制度の是非という"森"の中を彷徨う物語も、遂に終焉を迎える。
冤罪で死刑が執行された事例が紹介されていますが、これは決して物語の中だけの話ではありません。DNA鑑定が出始めた頃は、鑑定制度が不確かだったのですが、その頃の鑑定結果に基づいて死刑が執行された事件が我が国でもあります(飯塚事件)。現在再審中ですが、もしここで被告人の無実が証明されたら、刑事司法に対する信頼は回復困難なくらいに失墜するでしょう。世論が一気に死刑廃止に傾くか、そうでなくても現在の刑事司法制度に死刑を選択させることはできない、と事実上の死刑廃止状態に陥るかもしれません。
遂に渡瀬満の事件の真相・全貌が明らかになります。全てをわかり合い、心が通じ合った渡瀬と及川。
特に印象的だったのは、自らの罪を認め、死刑を受け入れた渡瀬が心を乱すシーンです。死刑囚の心の不安定さ、動揺を描いた名シーンだと思いました。
及川の逡巡と結論は、この物語を読み進め、一緒に悩んできたからか、自然と腑に落ちるように受け入れられました。先輩刑務官・若林のように考えるのも一つの結論だと思います。どちらにしろ、死刑制度や死刑そのものに向き合うときに一番大切なことは、常にためらいの中にいつづけるということ、及川の台詞を借りれば「今も……そして これからも深い森の中をさまよい続ける」ことなんじゃないか。死刑存続にしろ廃止にしろ、そこに何の逡巡も無い状態というのが一番怖い、そう私は思いました。
今はkindleでも買って読めるので、是非読んで欲しい作品です。
- 感想投稿日 : 2012年11月28日
- 読了日 : 2012年11月28日
- 本棚登録日 : 2012年11月28日
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