読書について 他二篇 (岩波文庫 青 632-2)

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【ショーペンハウアーの主張】
 3段階のロジックで捉えた。

 第一。多読は有害である。いくら栄養があるといえども、食物をとりすぎれば胃を害し、全身をそこなう。精神的食物も同様に、とりすぎれば、過剰による精神の窒息を招きかねない。身の丈にあった量を反芻することではじめて、書物はわれわれを養う。

 第二。ただし、量の多寡の以前に、そもそも読書をするに値する人物が限られている点に注意をうながしたい。読書は、著作家の才能と共鳴する形で、読み手が持つ天賦の才能を呼び覚ますものである。才がない場合は、表層的な手法を学び、軽薄な模倣者になるにすぎない。

 第三。才ある人物が、限りある時間と力を消費して本を読むからには、悪書ではなく良書を読むべきである。良書とは比類なき高貴な天才がのこしたものである。このような作品だけが、時の試練に耐え古典となり、真に我々を啓発する。

【個人的な見解】
 多読批判について。ショーペンハウアーに多読と認定されるのは、どれくらいの水準だろうか。彼が生きていた時代のドイツ知識人は、ユンカーと呼ばれる地主貴族が中心だったわけで、丸一日を読書に費やしている人もいたはず。当然インターネットなんか存在しない時代。読書スピードも現代人の2倍はあったに違いない。本の読みすぎはよくないと解釈するのではなく、まずはショーペンハウアーに怒られることを目指すのが正解ではなかろうか。また「身の丈にあった量を反芻」は、読書を通して心に浮んだ事柄を、時間をとって書きつけることで達成されるはずだ。

 読書の選民思想について。随分と厳しい思想である。「軽薄な模倣者」扱いされてしまっては、バカはどうしようもない。しかし、真似ることが学ぶことの第一のステップになることは、どの分野をみても明らかである。嘲笑されながらも、真似をし続けることが突破口になると信じたい。

 良書のすすめについて。出版物もビジネスの産物である。たとえば、本屋大賞は、素晴らしい作品と出逢わせてくれることもあるが、出版業界が作り出した、売上を立てるためのルーティンであることを忘れてはいけない。古典を読むべき、と声高に主張したいところだが、古典と格闘できるだけの体力が身についているとは思えない。そうなると多読で鍛えるしかないのだが、多読は有害。堂々巡りである。ショーペンハウアーさん、どうすればいいのさ。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2022年8月19日
読了日 : 2022年8月19日
本棚登録日 : 2022年8月19日

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