言論統制というビジネス: 新聞社史から消された「戦争」 (新潮選書)

著者 :
  • 新潮社 (2021年8月26日発売)
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感想 : 10
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書名がマニアックなので手に取りづらい本なのですが、読んでよかった、危なくスルーするところだった、ということでメディアに興味ある人へ、どんどんおススメ状態になっています。今年は日本のパブリッシャーの歴史を紐解く本が目に付くのですが、その代表例の「出版と権力」に倣って言えばまさに、「新聞と権力」。でも、これだと逆にフツーか…「言論統制というビジネス」で、正解だったのかも。中身は、もう、知らなかったの連続です。しかし現在の新聞業界の母型が太平洋戦争へ向かう1941年の新聞統制から生まれたものであり、しかもそれは国から業界が強いられたものではなく、自ら求めたものであることが丁寧に詳細に物語られていきます。なんとなく第二次世界大戦は軍部の独走にその要因を押し付けるだけではなく、新聞が売れる記事として戦争を煽ったことと、それに国民が熱狂して世論が戦争モードに入ってしまった、という様子は今までも語られていましたが、業界の動きについての研究は、なるほど…だらけ。全国紙と地方紙の対立、地方紙と通信社の依存関係、満州国通信社という実験、電通と陸軍、聯合と外務省という2ライン、広告と記事の連環、同盟・古野と読売・正力のバトル、朝日の事情による資本と経営の分離、日本新聞会という統制団体の存在…このどれもが現在の新聞業界に繋がっていることに驚愕しました。現在の新聞は戦争のレガシー、ってことになります。今年のオリンピック中止を求める社説を掲げた朝日新聞というメディアとオリンピックメディアスポンサーであることを辞めれなかった朝日新聞社という事業会社の矛盾の原因も、この本にある要素で語ることが出来そうです。戦争体制という無双モードだからこそ、昨今のデジタル変革に対応できなかったのかもしれません。2021年3月の一般紙朝刊の発行部数は3000万部。コロナが始まったばかりの20年同月比では234万部の減少…つまり1年間で毎日新聞の発行部数を上回る数が消滅しているという状態。これから、本書にある80年前の業界大変革、起こるかもしれませんね。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2021年11月2日
読了日 : 2021年10月25日
本棚登録日 : 2021年10月21日

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