実践する経営者: 成果をあげる知恵と行動

  • ダイヤモンド社 (2004年4月1日発売)
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感想 : 10
5

経営学の大家ドラッカーの膨大な論文の中から、
アントレプレナーを志す人々に向けた珠玉の論文を
ピックアップして、編集・構成した一冊。

80~90年代から主にピックアップしているが、
驚くべきことにまったく古びていない。
どころか、今日においても重要な助言ばかりであると
感じさせられる。

もっとも、私自身に起業経験はないし、
あくまで想像の範疇を出るものではないのだが、
世間で起業して、様々な道をたどっている企業経営者の
道筋と照らし合わせてみると、
実にドラッカーの言葉は正鵠を射抜いているなぁ…と
感心しきりだ。

-------抜粋↓----------------------------------------------

p.40
大企業が新聞の見出しを飾っている。しかし経済の推進役は、
休息に大企業から中堅企業や中小企業に変わりつつある。

p.44
大企業は、よりよいものになるのではなく、
より独特のものにならなければならない。大きいことによる
相乗効果は期待できなくなる。企業は、1つの製品分野ないし
1つの市場に焦点を合わせるほど、よりうまく事業をマネジメントできる。

-------抜粋↑----------------------------------------------

これを1991年に明快に言い放っているのだから、慧眼というほかない。
今日、なんでも型の日本の電機大企業がとんでもない赤字を
出しまくっているのは周知の事実である。
焦点の合っていない戦略・実行の結果なのだろうなぁ…。


-------抜粋↓----------------------------------------------

p.145
社会の無知をこぼすこの同じ経営者が、無知による罪の最大の犯人である。
彼らは利益についての初歩を知らない。彼らが日常言っていることが、
会社が本来とるべき行動を妨げ、社会の理解を妨げている。なぜなら、
そもそも利益なるものは存在しないということが、利益についての
基本的事実だからである。存在するのはコストにすぎない。

企業会計上利益と報告されているものは、3つの面から言って、
まさに定量化可能なコストである。第一に、利益とは、資金なる名の
重要資源の正真正銘のコストである。第二に、利益とは、
あらゆる経済活動に付随するリスクと不確実性に対する定量化可能な
保険料である。第三に、利益とは明日の雇用と年金の資金である。
これに対する唯一の例外、唯一の真の譲与はOPECの石油カルテルの
ような独占利潤だけである。

-------抜粋↑----------------------------------------------

「利益なるものは存在しない」
これにはぶったまげた。
しかし、ドラッカーの文章を読んでみるとなるほどと頷かされた。
確かに、利益利益といいながら、それがなんのための
"コスト"なのかを私含めてほとんどのヒトは考えたことはないだろう。
いまどき「売上高」ばかりを言う人はそんなに多くないけれど
「利益至上主義」はかなり多いと思う。
でも、その利益ってそもそもなんなの?っていうことの捉えなおしが
経営者にとって極めて重要なのだと気づかされた。


-------抜粋↓----------------------------------------------

p.157
これら5つの大罪は、すでに数世代にわたって知られていることである。
すべて数十年の経験によって、その害が十二分に明らかにされている
ものである。したがって、これら5つの大罪について言い訳は許されない。
それらは絶対に負けてはならない誘惑である。

-------抜粋↑----------------------------------------------

ここでいう大罪とは
1. 利益幅への過信:利益幅を信奉すれば、競争相手に市場を提供することと
   なる。最大の利益をもたらす利益幅こそ求めるものである。それが
   最適な地位をもたらす。
2. 限度一杯の価格設定:競争相手にリスクのない機会を提供する。
3. コスト中心の価格設定:価格をコスト積み上げ方式で設定することである。
   市場が快く支払ってくれる価格、そして競争相手が
   つけるであろう価格からスタートし、
   それに合わせて製品を設計することである。
4. 明日の機会の無視:主導権を握ったあと、
   その新事業の発展を阻害、無視すること。
5. 機会の軽視:問題に餌をやり、機会を飢えさせることである。
http://www.mirai-ltv.com/keiei/keiei-122.pdf より引用)

の5つである。

これもまた極めてインパクトある話だ。
特に、3のコスト中心の価格設定って、ついついやりがちになる気がする。
誰だって、投資分はさっさと回収したいと思ってしまう。
だが、それは顧客や市場をまるで見ていないということであり、
他のプレイヤーからの強烈な一撃(連撃かもしれない)で早晩死んでいくのが
目に見えている。

ここでいう大罪は、「当たり前のことの罠」とも言える。
人間の内的感覚から生じる「当たり前」は、その人間の個体の生存くらいには
ちょうどよく働くことも多いだろう。
しかし企業運営のような、生得的なものを超えた因数の多い事象の制御の
際には、人間的当たり前判断は、転落へのパスポートにすり替わってしまう。
ドラッカーの戒めは、強く刻んでおかねばならない。


これらが特に私がうなった部分であるが、
一番個人的に印象深いのは
「キャッシュフローの重要性」
を口をすっぱくしてアドバイスしていることである。

売上高でも、市場シェアでも、利益でもない。
すべてはキャッシュフローが明暗を握っている。

よくよく考えれば道理なのだが、その「よくよく考える」まで至ることが
どれほど難しいか。
私たちは自分の財布とお店の買い物くらいの次元ならば、
キャッシュフローの意味を理解して使いこなせているけれど
(だから日々この市場経済で生存しているわけで)
これがやっぱり、企業経営という生得的によくわからんレベルまで
引きあがると、とたんに掴めなくなって、見失ってしまう、
というドラッカーの警句であるように思う。

企業経営は、人間の生得的能力では追いつかない要素が絡み合って、
日々広がったり縮んだり化けたりを猛スピードで繰り返す状況を
いかにマネージしていくかということなのだと
気づかされた。

そこにおいて「成功」したいならば、賢者の言葉に耳を傾けること、
それをかみ締めてただちに実行に移すことが何より求められる。
そう確信した。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 経営/マネジメント
感想投稿日 : 2012年2月16日
読了日 : 2012年2月12日
本棚登録日 : 2012年2月12日

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