ルノワールは無邪気に微笑む: 芸術的発想のすすめ (朝日新書 7)

著者 :
  • 朝日新聞出版 (2006年10月1日発売)
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感想 : 16
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 独特の風格がある千住博。滝の絵が象徴的だ。その絵を見た時に、滝にうたれた感じがあった。滝そのものが、水の激しさをあらわし、水の一生にとっても劇的な瞬間だ。それを絵画で表現する。流れの中の激しさを感じさせる。
 千住博が、74の質問に答える。さまざまな質問があり、その質問に丁寧に答えている。
いくつかの質問と著者の回答を、自分への質問に変えて、考えることができた。
「芸術とはイマジネーションを伝えたいと思う心のことなのです」、「芸術とは『オレの叫びを聞いてくれ!』ということです」という。
芸術とは、コミュニケーションであり、オレの叫びなのだ。
絵の実力とは?
「うまくいかないのが人生です。私は作品がうまくいかないとき、『これが本当の実力だ』と感じます」「私は何かをやろうとして上手くいかないときには、やりたいということに問題があるのではなく、その舞台の設定にこそ問題がある」ふーむ。回答が真摯に千住博として受け止めている。
巨匠といわれる業績での質問
「ピカソやマチスの近代絵画としての象徴的な考え方やテーマ性。セザンヌの画面構造に対するまったく新しい切り口。モネの絵画の可能性を切り開いた壮絶な挑戦の歴史。
 ルノワールの業績は何だっけ?『ほんわか』としか言いようのない、ある意味ではこれ以上は『すくい難い』ほどの無邪気な幸福感と光に満ちあふれた世界。笑顔だけを伝えなくてはならないと感じるくらい。人々は笑顔を何よりと必要としていると、彼は感じていた。それが笑顔のための笑顔。芸術の究極は乱暴を承知で煎じ詰めれば、平和のために存在するといってよいのです」という。
 これは、絵を見る視点を大きく変えることができた文章だ。なぜ絵を描くのか?そして、なぜ絵を鑑賞するのか。絵のテクニックだけの問題ではない、コミュニケーションとしての絵を読みとるかだと思った。「無邪気」を描くことができるのがすごい。
 千住さんが タイムマシンに乗って、どこへでもいけるとしたら、いつの時代に行くか?
「勉強のためならば、長谷川等伯、狩野永徳のいる桃山時代へいく」
タイムマシンとは、今をよりよくするために、勉強のために使うのだ。
 1枚の絵はどのくらいの時間で出来上がるものなのでしょうか?という質問に
千住博は、「私は今48歳ですから、今描き終わった作品はすべて48年かかった」という。
「そのモチーフは、その人が今日まで生きてきた人生の中で、であった驚き、感動、喜び、怒り、悲しみなどの積み重ねにより決まってくるものなのです」人生を賭けるという意味なんだね。
「デッサンをするときには、自然に目に入ってきた順に描く。絵を描くときには、心ひかれた描きたいものの順位に描く」芸術とは、目から心に伝達されて昇華していく。
「1流というのは、誰でもなろうと思えばなれる。だけど超1流というのは、違う。それは神話を持っているかどうかなんだ」という言葉を引用していた。神話ねぇ。
 最近。『天分』という言葉の意味が少しづつわかってきた。つまり、自分の天分はどこにあるか?そんなことを考えながら、歩き続けている。
 質問と回答という形式の本は、随分と自分への質問へ発展させることができた。いい編集だ。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: アート
感想投稿日 : 2013年2月11日
読了日 : 2013年2月11日
本棚登録日 : 2013年2月11日

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