紅茶の教科書

著者 :
  • 新星出版社 (2008年11月1日発売)
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 私が紅茶に目覚めたのは1980年。駅と学校を結ぶ道に「紅茶専門店」を見つけたからだ。当時は喫茶店の時代。コーヒーが主流。しかし、まだシアトル系のカフェは進出していなかった。喫茶店は営業のサラリーマンが客の主流だったと思う。そんな頃、紅茶の専門店というのはとても新鮮だった。窓を覗くと、店内は女子大生が占めていた。ちょっと恥ずかしかったが、ある日、意を決して友人と男2人で入ってみた。すると、高貴な香りがなんとも良かった。そう、なんとなく高貴だと感じたのだ。そして、店内が明るく、清々しかった。喫茶店の暗さとは対照的で、心が浮き立ったのを覚えている。席に着いて、いよいよ注文。メニューを見ると、なんという種類の多さ。驚いた。だから当然迷ったけれども、ドギマギはせずに選ぶことを楽しめたのは不思議だった。どの紅茶にも、簡潔な説明が書かれていたと思う。何を選んだかはもう覚えていないが、世界三大紅茶から一品を選んだか、それとも名前から勝手な連想をしてキャンディなんかを頼んだか。運ばれてきた紅茶はポットに入り、可愛いキルティングのティーコージーが被せられていた。砂時計もあったような。ままごとの様で照れくさかったが、アットホームな雰囲気や、やさしい丁寧な説明を受け、心から紅茶を楽しんだ。その後はコーヒーではなく、いつも紅茶。紅茶の本を読んだりして、茶葉を専門店に買いに行ったりもした。新宿高野の地下の店、御茶ノ水のサモワール、原宿のクリスティー、吉祥寺のティークリッパー、銀座のリプトン、三越のF&Mなどなど。紅茶を飲みながら、片岡義男の文庫を読んだ。今、紅茶もコーヒーも日常化してしまい、あの頃のときめきは薄れた。でも、口にするたびに、そんなあの頃のことを必ずといっていいくらい思い出す。それがいい。そんな思い出から手に取った本書。紅茶のことをやさしく解説した教科書。おいしいいれ方、茶葉と茶園の話、ブレンドのすすめ、紅茶の歴史がわかり易く書かれている。特に興味を引かれたのは「英国王立化学協会による一杯の完璧な紅茶の入れ方」の10ヶ条。2003年6月24日に発表されたそうだ。英国人の紅茶に対する厳格さがどんなものか、わかる気がする。そうそう、ミルクティーを作るときの「ミルクと紅茶、どちらが先か?」論争の結論もその発表にあった。ラフバラー大学のエンジニア、アンドリュー・スティープリー博士の検証により、ミルク・イン・ファースト(MIF)、つまりミルクが先と化学的に結論づけられている。紅茶ファンを楽しませた、長い長いミルクティー論争は、この2003年に一応の決着を見たそうだ。真面目で真剣なのだが、なんとも微笑ましい話だった。昔を思い出したところで、紅茶専門店に行ってみよう。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 英国と紅茶のパンジェンシー
感想投稿日 : 2010年2月9日
読了日 : 2010年2月21日
本棚登録日 : 2010年2月9日

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