【あらすじ】
空が蒼く染まるころ、主人公は「死神」と出会う。
「自分が死神であること」以外の全てを忘れた青年に、主人公は「自分は美しい言葉を探している。あなたも、私と一緒に”美しい言葉”を探さないか」と伝える。
自分が何をするべきか忘れた青年は、主人公の手をとり、一緒に”美しい言葉”を探す旅(物語)に出る。
それは死神と少女の物語。
【主人公】
美しい顔を授かり、裕福な家に生まれ育った”お姫様”ながら、常に孤独を抱き、家庭環境に悩みを抱える高校生。
現在は実家を飛び出し、兄と二人で暮らしている。
本と兄が何よりも大切で、兄に関しては依存気味(兄も同じくらい依存しているので傍から見ていて病んでいるよう)。
また、幼少期に孤独を感じていた所為か自分を取り繕い、極力他者から嫌われないように過ごしている節がある。
ただし、根っこは頑固で意外に気性も激しい。
他乙女ゲームでありふれた”イイ子ちゃん”ではなく、黒い感情や劣等感、プライドの高さや打算など、一般的な女性と同じものを持っていて、それだけであればかなりユーザーに近い存在だけれども、それらを取り繕い”イイ子ちゃん”を演じているために胡散臭く、女性に好まれそうにない女の子に仕上がっている。
あまり自分自身と重ねたくない存在になってしまっているので、「主人公=私」派には向かないし、共感することも難しい。
【攻略対象】
「死神と少女」を構成する登場人物であり、それぞれに物語を抱える人たち。
物語があり、「普通の人」ではないにせよ、乙女ゲームらしい”キャラ付け(オレサマとかツンデレとかドSとか)”はされていないのでキャラ萌えはし辛いし地味めな印象。
【システム】
ノベルゲーム。
1章~6章、黒の章、蒼の章から構成。
黒の章は十夜ルート、蒼の章は蒼ルートで物語の根幹。
日生/七葵ルートは1~5章のうちに分岐する。
全エンディングを見ると章選択画面に「あとがき」が追加。「死神と少女」の作者から物語について語る様子が描かれる。
1章1章が物語を題材にした内容であり、実際の出来ごとが物語とリンクして綴られている。
【ストーリー】
<<主軸>>
とても幻想的で美しい物語。読み応えはバッチリ。
1~3章までは”短編”のようで、前後の繋がりが曖昧であり、目立った面白さを見出すことは難しい。けれど、続く4章・5章で物語の世界と攻略対象らとの話とがリンクし出し、次第に内容に引き込まれるように。
全てを見終わると、最初からこれは「死神と少女」という一冊の本であり、その全ての”短編”が物語を構成する一部なのだと気付かされる構成になっています。
物語としての完成度は高いと思うし、丁寧に張られた伏線やそれらが回収されていく様は見事。
一方で、独特の”小説感”というか、物語の目的が終盤までハッキリとしないし、作品としての意味合いや山場も「黒の章」「蒼の章」を見るまでは曖昧なので、忍耐が必要な作風かなぁ、とは思います。
また、内容が小難しいので、普段から小説を読み慣れており、かつ行間を読むというか、あれこれ考察して独自の理論を組み立て、伏線を発見し、回答を見つけることに喜びを覚える人間でないとこの作品をフルに楽しむことは難しそう。
完成度の高いストーリーですが、万人には完成度の高さが伝わらない「人を選ぶ」作品だと思います。
<<恋愛>>
乙女ゲームらしい恋愛要素はほとんど見当たりません。
キャラから特別口説かれることはなく(優しい嘘を付くフェミニスト・日生先輩は別)、主人公が彼らに惹かれてときめく様子もない。
紗夜が体験する物語を通して彼らを求め、一緒に過ごし、最終的には連れそう要素はあれど、そこに”恋”の感情があるのか、描かれているのか、と問われると微妙。
ここでは彼らは「物語の上で主人公を救う存在」に過ぎず、決して彼らとの「恋物語」を描いた物語ではないのだという認識。
”乙女ゲーム”として、彼らと恋をすることを目的に遊ぶと物足りなさを感じるかと思います。
【感想】
久々に乙女ゲームでバッチリ読み応えのある作品を遊んだな、という感慨はあれど、
「乙女ゲームとして」遊ぶのは絶対にお勧めしない作品だなぁ、と思いました。
いうなれば女性向けサウンドノベルというか、あくまでこれは紗夜と彼らとの幻想物語なのだ、という前提でストーリーを噛み締めつつ楽しむのが良いかと。
進めるときの考え方(心構え?)は「AMNESIA」と似ていますが、「AMNESIA」以上に乙女要素を削ぎ落している上に小難しいので、安易に手を出すと火傷必至。
「シナリオ」の部分でも書きましたが、
●小説(或いはライトノベルでも。ただし、質が高いものに限る)を読み慣れている
●作品に”乙女ゲーム要素”を求めていない
●行間を読み、展開を予想し、推測・考察することができる、そしてその工程を「楽しい」と思える
人に限って強くお勧め致します。
私は、あまり頭の良い人間でもなければ、考察・推測することに喜びを感じる人間でもないのでストーリーを何とか自身に落とし込んで、「理解しようとする」ことが精一杯でした(笑)
伏線の張り方や回収を考えるととても完成度の高い、美しい物語だとは思うけれど、じゃあ楽しかったのか、と言われると、私個人はもう少し分かりやすくてドラマチックなお話の方が好きかもしれません。
- 感想投稿日 : 2015年5月20日
- 読了日 : 2015年5月20日
- 本棚登録日 : 2011年10月31日
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