草加次郎…1963年頃に、東京で連続爆破事件を起こした犯人である。僕がこの名を知ったのは、幼かった当時ではなく、もちろんずっと後になってからだ。事件は解決しないまま、迷宮入りになったようだが、不勉強なんで詳しくは知らない。
で、この作品。著者の一連の作品に登場する人気キャラクター、村野ミロの父親である村野善三が主人公。いわゆる週刊誌のトップ屋(今でもこの言葉はあるのだろうか)だった頃の時代背景が描かれている。1964年の東京オリンピックを前にした高度経済成長が始まる、とにかく活気に溢れていた時代のことである。
この頃の僕は、二筋に垂れた青っ鼻を袖でぬぐっているような幼児だった。まだ戦後の焼け跡が残っている家の前の原っぱで遊んでいると、たくさんの洗濯物を脇に積んで、大きな金タライを抱えるように洗濯板でごしごし洗っている今は亡き母が、背中越しに「のりちゃん(僕のこと)、知らないおじさんについていっちゃだめだよ」と、よく言っていたことを思い出した。吉展ちゃん誘拐事件という、身代金誘拐の代名詞にもなったような事件があったのもこの頃ではなかったか。
草加次郎事件はそんな時代に起った。トップ屋として事件を追っかける善三と、実名でどんどん出てくる、当時のタレントや企業が、まるでノンフィクションを読んでいるようなリアリティをみせてくれる。吉永小百合ならいざ知らず、あのお千代さん、島倉千代子がすごいアイドル(この言葉もあったのだろうか)だったということにも驚き。太陽族の石原裕次郎を彷彿とさせる人物も出て来たりして、当時の世相を知る上でも勉強になった。解説を読むと1964年は、<車>と<女>と<ファッション>を三本柱とした「平凡パンチ」の創刊の年、情報の娯楽化が始まった年だったという。あれからすでに40数年の歳月が流れている。
- 感想投稿日 : 2021年1月25日
- 読了日 : 2002年1月12日
- 本棚登録日 : 2021年1月25日
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