『楡の家』に登場する母親の娘が主人公。平凡な男と結婚したことに後悔し始めた頃、結核を発症し、療養のために入ったサナタリウムでの日々が綴られるという体裁の一冊。心の内面や自然の描写は他の著作同様とても細やかで、言葉にうまく言い表せないはずの気持ちが、こちらへ伝染してくるほどに巧み。他著との連動もあって、サナタリウムでの描写には「風立ちぬ」の節子とその恋人らしき人が少し登場したりもする。
そんないくつかのエピソードの中で、ある時、菜穂子が衝動的に一人で病院を抜け出し、東京へ帰って来る、という場面がある。マザコン気味の夫、黒川圭介は一緒に暮らそうなどと言うはずもなく、菜穂子はそのまま翌朝、一人で八ヶ岳の病院へ帰ることになるのだが、宮崎駿監督の映画との違いが顕著で面白い。
堀作品におけるこのシーンの意味合いと映画のそれとは異なるが、監督はもちろん、このストーリーを踏まえて映画の登場人物に命名したはずだと思うと、本家の「菜穂子」よりも幸せそうな映画の彼女の描き方に、ちょっとあたたかい気持ちになった。
読書状況:読み終わった
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カテゴリ:
エッセイ・小説・フィクション
- 感想投稿日 : 2013年8月27日
- 読了日 : 2013年8月9日
- 本棚登録日 : 2013年8月9日
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