小ぶりだけど丹念に織り上げられて鈍い光沢を放つ精緻なタペストリーのような作品集。
ジャーナリスト兼エッセイストの内田洋子さんが、イタリアにて出会った人々それぞれの人生の光と影を、慈しみに満ちているのにどこか物悲しさを感じさせる静謐な文体で叙情的に綴っています。
エッセイなのに、まるで小説の短編集のように錯覚しまうのは、きっと、内田さんとそれぞれの人との出会いや共有した時間の描写だけでなく、彼女がその目では実際には見なかったけど、聴く機会を得た彼らの過去や人生の転機を、短くも丁寧に一つの流れとして組み立てて愛おしむように記しているから。
どんな人生にも、成功や穏やかさ、暖かさといった正の面だけでなく、挫折、貧困、孤独といった負の側面が確かに存在する。
読みながらそんなことを考えて泣いてしまいそうになったけれど、それでも読めたのは、この味わい深く慈しみに満ちた美しい文体のおかげ。
内田さんの作品は、イタリア文学者でエッセイストでもあった須賀敦子さん(1929-1998)の作品と並べられることが多いらしく、確かに思い起こさせる部分も多いけれど。(どちらも美しさ、慈しみ、物哀しさ等を感じさせるといった共通点の多さがあるからかも。)
内田さんの作品が精緻に織られたタペストリーであるとすれば。
須賀さんの作品は絶妙な大きさにされたはぎれをこれまた絶妙かつ綿密に組み合わして作り上げられたパッチワーク、という気が個人的にはしていて。
類似点の多さ以上にそれぞれの個性というか印象の違いがあって、どちらの作品も素敵なので。
興味がある方はお二人の作品を是非読み比べてみてほしいです。
- 感想投稿日 : 2022年3月12日
- 読了日 : 2022年3月12日
- 本棚登録日 : 2022年3月12日
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