「その淫靡さゆえ、邪悪さゆえ、目を逸らせなくなってしまうのだ。誰の心にも潜んでいる罪深きものへの興味、怖いもの見たさ、人間の原初的な感覚に、オーブリーのナイフはまっすぐに切り込んでくる。彼の<サロメ>をひと目でも見てしまったら、もう逃げられなかった。」
オスカー・ワイルドの代表作の一つ戯曲「サロメ」の挿絵を描き、19世紀末のデカダン芸術の異端児にして天才と位置付けられたオーブリー・ビアズリーの愛憎に満ちた劇的なたった25年の人生を、彼の姉メイベルの視点から描いた原田マハさんの作品。
正直、作中プロローグで設定された、21世紀を舞台にしたミステリー要素はかなり肩透かしだし、キーパーソンと設定されたのが女のメイベルであるためか、全体的にあまりにもメロドラマ的でちょっと食傷気味になってしまう。
でも、マハさんの他の作品を考えても、この方のキュレーターとしての経歴的にも、こういう設定が本当に好きなんだろうなと思う。
とはいえ、ビアズリーの作品の特色だけでなく、「サロメ」にとどまらない人生の転機も丁寧に捉えています。
先に時代に名を馳せていたワイルドという奇抜な天才が、ひと世代下の異端の天才であるビアズリーの人生を絡め取ったようで、その実、ビアズリーの才がワイルドを踏み台に食ってしまったというのは興味深い。
どちらも不幸になるのだけど…。
ビアズリーの画集を眺めながらその人生を簡略に知る文芸書としては読みやすくていいと思います。
読書状況:読み終わった
公開設定:公開
カテゴリ:
芸術
- 感想投稿日 : 2019年9月14日
- 読了日 : 2019年9月14日
- 本棚登録日 : 2019年9月14日
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