これ程、人間の多面性と多様性、そして、ジレンマを、一つの作品の枠の中で描ききった作品もなかなかないと思います。
日本人なら、作品タイトルと主人公の風貌ならば知ってる、といっても過言ではないくらいの名作で、医療漫画の金字塔。
私にとっては、訳あって、最近手塚治虫氏に興味を持って、初めて読んだ手塚作品。
無免許の外科医「ブラック・ジャック」が、患者を治すため、その天才的な手術の腕を振るう、一話完結型の、大枠それ自体は至極シンプルなストーリー。
しかし、一人の人間の中に矛盾的な面が同居する複雑さ、医師や患者それぞれのエゴ、誰かに向ける愛情、医療における永久的な課題や医師のジレンマなど、様々なテーマが、毎回毎回、20ページほどの短い中にきっちりと収められています。
主人公のブラック・ジャックは、幼い時に悲惨な事故で母を亡くし、同時に自身の身体はバラバラになって、恩師のおかげで奇跡的に助かって医師を志した人物。
天才的な腕を持つ外科医だけど、無免許で、法外な手術料を要求し、はたからみれば金に汚い面を持つ。
けれど、自身の幼少期のことがあるのか、特に、子供や、子を持つ親の一途さには甘く、結果的にしてもただ働きをしたりも平気でする。
他の医師に興味がなさそうに見えて、馬鹿にされれば、意地になって張り合ったりするプライドの高さがある。
あるきっかけから産み出した、同居人の少女「ピノコ」には、家族としての深い愛情を持つ。
母を捨てた父と、母を殺した事故を起こした人々を憎み、復讐に手を染める。けれど、その過程で、苦悩もする。
そして、いくら天才的な外科医であっても、すべての患者を救えるわけではなく、そのことにひどく肩を落とす。
中には、助かったことを苦にして自殺してしまう患者までいて、それが彼を、ひどく傷つけ、悩ますこともある。
矛盾するようで同居する人間の様々な側面をブラック・ジャックは持ち、決して完全無欠のヒーローではない様が、かえってそれ故に魅力的です。
毎回登場する患者たちも、善人もいれば、悪人もいて、そして、それを取り巻く家族や友人の人物模様があり、悲喜劇に満ちていて、飽きません。
そして、ピノコとの、親子とも夫婦とも恋人とも言い難い微妙だけどよい関係と、ブラック・ジャック大好きなピノコの無邪気な一途さが、時に重いテーマを和ませてくれます。
主要キャラの人物像や生命に関わるテーマという縦糸と、毎回変わる患者や進展する状況の横糸が巧みに組み合わさってできた、まさに名作ですね。
- 感想投稿日 : 2017年12月17日
- 読了日 : 2017年12月17日
- 本棚登録日 : 2017年12月17日
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