色合いも質感も異なる主に二種の薄布を、わざわざ絶妙な大きさの「はぎれ」にした後、丁寧に縫い合わせ、時には幾重にも重ね合わせて、複雑な陰影と静かな光沢を放つ一枚の滑らかで美しい布に仕上げたような作品。
フランスの作家マルグリット・ユルスナール(1903〜1987)の人生とその作中人物を、イタリア文学者でエッセイストとしても知られる須賀敦子さん(1929〜1998)が、自らの人生の軌跡に重ね合わせながら描いたエッセイ集。
八篇の短い作品から構成されているだけでなく。どの篇も時系列などは無視されているにとどまらず、須賀さんご本人の過去の一片について語っていたかと思えば、ユルスナールの人生の一時期を語り出し、はたまた、ユルスナールの代表作に登場する古代ローマ皇帝ハドリアヌス帝のことについて言及したり。
どれも断片的なものの繋ぎ合わせのようで、その実、とても丹念かつ緻密に組み合わされていて、するりするりと頭の中に流れ込んできます。
もちろん、これぞ須賀さんの文というべき、愛おしさと慈しみ、そして、どこか哀しみを滲ませながらも、すっきりと無駄のない静謐な美しさを持つ文体は健在です。
上質な時間を味わい、満ち足りた気持ちになれました。
ただ、惜しむらくは、私がユルスナールの著作を一つも読まないまま本書に手を出すという暴挙をおかしてしまったこと。
三年ほど前に須賀さんの作品に出会ってから、いつかいつか…と思いながら実現させず、そのまま本作へ。
ユルスナールの文体や作風の変遷を感じ取っていたほうが、もっと本書の醍醐味を味わえたことでしょう…。
2021年は、ユルスナールの代表作「ハドリアヌス帝の回想」を絶対読まねば、と思った、2020年12月でした。
- 感想投稿日 : 2020年12月30日
- 読了日 : 2020年12月30日
- 本棚登録日 : 2020年12月30日
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