「女縁」を生きた女たち (岩波現代文庫 社会 171)

制作 : 上野千鶴子 
  • 岩波書店 (2008年9月17日発売)
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1988年に刊行された『「女縁」が世の中を変える―脱専業主婦のネットワーキング』(日本経済新聞社)を、20年後に著者と当事者たちによる検証を加えて文庫化した本です。

本書では、80年代に専業主婦たちの間で自生的に生じたネットワークの取材がおこなわれるとともに、そこに従来の血縁・地縁・社縁に収まらない可能性への期待が語られています。しかしその後、格差社会の到来によって、「女縁」になくてはならない時間的・経済的な余裕が失われ、その継承はうまくいかなかったと語られています。著者は、やはり80年代における「消費による革命」を論じた『「私」探しゲーム―欲望私民社会論』(ちくま学芸文庫)の内容についても、その後小沢雅子の『新・階層消費の時代』(朝日文庫)の議論を受けて放棄するに至っており、本書でもそれと平行的な著者の立場の変遷が確かめられます。

その一方で、メンバーたちがともに年老いていく「女縁」は、それぞれの世代がそれぞれの時代状況に応じてもっとも適切なつながりを築くという「セルフ・ユアセルフ」の精神がむしろ当然だという指摘もあり、このような見方はその後の『おひとりさまの老後』(文春文庫)にも引き継がれています。そういう意味では、それぞれの世代の自己救済についての議論と、社会の制度設計についての議論をはっきりと区別し、両方の観点から議論を構成するという著者のスタンスは、今に至るまで変わっていないようにも思います。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 政治・経済・社会
感想投稿日 : 2017年9月9日
読了日 : -
本棚登録日 : 2017年9月9日

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