著者の第二作で、前作の『限りなく透明に近いブルー』に似たスタイルでありながら、幻想的な雰囲気がただよう作品です。
海辺の「僕」のまなざしの先にある町に暮らす、さまざまな物語がくり広げられていきます。それらは、三人の少年たちの物語、大佐とその愛人の物語、若い衛兵とその家族の物語、洋服屋と病気の母の物語などですが、一つひとつの物語はわかりやすい帰結に行き着くことなく、祭りによってもたらされる興奮に巻き込まれながら、登場人物たちは微妙にすれ違う会話を交わしつづけていきます。そして、そうしたどこにも行き着くことのない物語に、戦争というカタストロフがもたらされます。
「戦争」は、幻想的な「町」に暴力的に介入する「外部」であり、「町」に暮らす人びとの理解を超えた出来事です。しかしそれは、「僕」にとっては「海の向こう」の出来事にすぎません。こうした「僕」のまなざしは、第一作の『限りなく透明に近いブルー』で示された、即物的な次元に降りていくことで獲得される批評的なまなざしに通じるものがあるように思います。本書の「解説」を担当している今井裕康(三浦雅士)も、『限りなく透明に近いブルー』のリリーのセリフを引用することから本作の解読をはじめており、「村上龍においては、なによりもまず見ることが書くことなのである」と主張していますが、わたくし自身もこれは的確な解釈であるように思います。
読書状況:読み終わった
公開設定:公開
カテゴリ:
日本の小説・エッセイ
- 感想投稿日 : 2021年2月26日
- 読了日 : -
- 本棚登録日 : 2021年2月26日
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