ハイデガーが『存在と時間』という書物の中で考察しようとしていた内容を解き明かしている本です。
同じ講談社現代新書から、すでに仲正昌樹の『ハイデガー哲学入門─『存在と時間』を読む』が刊行されていますが、仲正の本が『存在と時間』の既刊部分で論じられている実存思想に焦点を絞って、比較的わかりやすいことばでその内容を解説しているのに対し、本書ではハイデガーその人の思索の道行にしたがいつつ、彼がめざしたものが何であったのかを明らかにしています。
本書では、キシールによって解明された『存在と時間』の成立過程について、非専門家にもわかりやすく説明がおこなわれているとともに、ハイデガーがカトリック神学などのキリスト教の思想から影響を受けていることに注目し、本来性と非本来性の区別や「良心の呼び声」など多くの入門書では正面からとりあげることが回避されてきた問題に、あくまでハイデガー自身の思索の内からその意義をたどることが試みられています。
また最終章では、『存在と時間』が挫折に終わった理由についての考察がおこなわれています。そこでは構想力をめぐってカントが展開した時間論からの影響が指摘されるとともに、現存在の時間性を「地平の統一」として描き出そうとしたことが、地平を定立する主体を想定してしまうという問題を孕んでいたことが指摘されています。
431ページという、新書にしてはかなりのヴォリュームになっており、内容面でも『存在と時間』にくわしく立ち入って議論が展開されています。ハイデガーの思想の根幹にあるものに触れることのできる、かなり本格的な入門書といえるのではないでしょうか。
- 感想投稿日 : 2017年10月20日
- 読了日 : -
- 本棚登録日 : 2017年10月20日
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