長年にわたって『古事記』を中心とする日本古代文学の研究をおこなってきた著者の、出雲神話についての見解がまとめられている本です。
出雲神話をめぐる従来の解釈を批判し、考古学上の研究成果も参照しながら、ヤマト王権に敗北した出雲の側の「語り」を、『古事記』や『風土記』のうちに読みとろうとする試みがなされています。著者は、高天原からタケミカヅチが使者として遣わされ、タケミナカタとの力くらべを経て「国譲り」がおこなわれたという解釈は、ヤマト王権による出雲の「制圧」として理解されなければならないと主張しています。また、カミムスヒについても、出雲とかかわりの深い神であったという考えが提出され、『古事記』や『日本書紀』においてタカミムスヒと並列する神として位置づけられることで、そうした実態が見うしわれていったことを主張するとともに、そのような考えを著者に先だって提出していた先行研究の発掘をおこなっています。
著者は、古老の語りという形式をとった『古事記』の現代語訳を刊行し、『古事記』の入門書も多く執筆していますが、本書はそれらの解説でも語られていた、出雲神話についての著者の考察の集大成となっています。600ページを越えるヴォリュームの本で、重厚な内容を予想していたのですが、たしかに既存の学説についての紹介などはやや難解に感じられるところはあったものの、おおむね読みやすい説明となっており、また著者の主張そのものが展開されていく叙述の流れもたいへん興味深いので、読みはじめると一気に読むことができました。
読書状況:読み終わった
公開設定:公開
カテゴリ:
文学研究・批評
- 感想投稿日 : 2023年6月7日
- 読了日 : -
- 本棚登録日 : 2023年6月7日
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